研究実績の概要 |
前年度に引き続き、脳梗塞病態時に誘導される、脳傷害/虚血誘導性幹細胞(injury/ischemia-induced stem cells; iSC)を用いた細胞移植の有効性に関する基盤的研究を施行した。iSCはマウスのみならず(Stem Cells, 33, 1962-1974, 2015)、ヒトの脳梗塞病態時にも誘導され(Stem Cells and Development, 26, 787-797, 2017)、神経分化能をもつことから、脳梗塞後の神経再生の鍵を握る幹細胞であると考えられる。しかしながら、iSCを用いた神経再生療法の確立には、さらなる基盤的研究が必要不可欠である。 そこで、本研究では、脳梗塞患者より単離したヒト由来iSCをGFPで標識した後、脳梗塞マウスに細胞移植し、①iSCが生体内において神経細胞に分化し得るかどうか、②iSC移植が脳梗塞後の神経脱落症状を改善させるかどうか、の解明に焦点をあて、iSCを用いた臨床応用に必要な橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)を施行した(World journal of stem cells, 11, 452-463, 2019)。その結果、移植したヒト由来iSCは、脳梗塞マウスの梗塞巣周囲に生着し、一部は神経マーカーであるTuj1やMAP2を発現することが確認された。さらにiSCによる細胞移植を行ったマウスでは脳梗塞後の神経脱落症状の改善を認め、運動機能、認知機能、学習能力などの改善が確認された。しかしながら、細胞移植後のGFP陽性細胞数は、移植後の時間経過とともに減少し、その大部分は最終的に脱落することが分かった。従って、細胞移植後の神経機能改善効果には、細胞移植による神経置換作用(neural replacement)に加え、別のメカニズムも存在することが示唆された。
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