研究課題/領域番号 |
18K07388
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 薫 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (00735152)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経科学 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病を始めとする一群の神経変性疾患においては、タウの異常蓄積が神経細胞死の原因となっており、その蓄積機構解明は極めて重要な課題である。近年タウの異常蓄積が細胞から細胞へ移行する、「細胞間伝播」の現象が明らかになった。タウの細胞間伝播は、細胞外に存在し凝集核としての活性を持ったタウによって進行するが、細胞外のタウの体内動態はいまだ不明である。そこで本研究では、細胞外におけるタウのクリアランス機構を解明することを目的とし、脳間質液 (ISF) と脳脊髄液における代謝経路として知られる、glymphatic systemに着目した。Aquaporin-4はアストロサイトに発現しglymphatic systemにおいて水輸送を担うことが報告されている。まずAQP4 KOマウスにおいてglymphatic systemの機能低下が生じているか検証を行ったところ、AQP4 KOマウスでは小脳延髄槽に注入した蛍光トレーサーの脳内移行が野生型と比べて確かに低下していることが確かめられた。そこで次にP301S変異型タウを発現し、加齢依存的に異常タウを蓄積するタウトランスジェニックマウスPS19と、AQP4 KOマウスとを交配し、glymphatic clearanceの低下が脳間質液中のタウ量に与える影響をin vivo microdialysisで解析した。異常なタウ蓄積とそれに伴う神経細胞死が生じる9か月齢のマウスにおいては、AQP4欠損はISF中のタウ量に影響を及ぼさなかったが、タウの蓄積開始以前の3か月齢のマウスにおいてはAQP4欠損によってISF中のタウ量が低下することが明らかになった。現在、AQP4の欠損が、タウの異常蓄積や神経細胞死に与える影響についても解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小脳延髄槽への蛍光トレーサー注入実験によって、AQP4 KOマウスにおいてglymphatic systemの機能低下が生じていることを確かめることができた。またタウトランスジェニックマウスPS19と、AQP4 KOマウスとの交配も順調に進み、当初の計画通り、3か月齢と9か月齢での解析を行うに十分な個体数を得ることができた。またin vivo microdialysisの実験によって、AQP4の欠損が脳間質液中におけるタウの定常状態の量に、月齢によって異なる影響を及ぼす可能性を示唆するデータを得ることもできた。以上の成果により、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はAQP4の欠損が、月齢依存的なタウの異常蓄積や、神経細胞死に与える影響について、生化学的及び免疫組織学的な解析と定量を進める。また脳間質液において、AQP4の欠損が可溶性タウと、伝播を担う異常型タウの脳内動態に異なる影響を及ぼす可能性も考えられた。そこでAQP4の欠損とタウの細胞間伝播の関連をより詳細に検証する実験も行う。
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