アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患ではタウの細胞内異常蓄積が原因となり神経細胞死が生じると考えられる。近年、凝集核としての活性を有したタウが、細胞から細胞へ移行する「細胞間伝播」の現象が明らかになった。細胞間伝播は細胞外に存在するタウによって進行すると考えられるが、細胞外液中に分泌されたタウが、どのように脳外へ除去されているのかは明らかではない。そこで本研究では、近年脳細胞外液のクリアランス経路として報告された、glymphatic systemに着目し、glymphatic clearanceに重要なAQP4を欠損するマウスを用いて、タウのクリアランス、タウの異常蓄積、神経細胞死にglymphatic clearanceが与える影響を解析することとした。まず蛍光標識したタウを用いた注入実験により脳細胞外液中のタウ動態を解析したところ、AQP4KOでは脳実質から脳脊髄液へのタウ移行及び、CSFから深頚部リンパ節へのタウクリアランスの両過程が顕著に阻害されていることが明らかになった。そこで次に、P301S変異型タウを過剰発現するPS19とAQP4KOを交配させることで、加齢依存的なタウの異常蓄積と神経変性にglymphatic clearanceが与える影響について検討を行った。PS19xAQP4 (-/-)ではCSFタウの上昇が見られ、また9か月齢になるとリン酸化タウの異常蓄積が著明に増加するとともに、神経細胞数が減少し、海馬と大脳皮質が顕著に萎縮することが明らかになった。本研究により、細胞外タウがglymphatic systemにより、脳間質液から脳脊髄液、深頚部リンパ節を介して脳外へ除去されていることが初めて示された。細胞外タウのクリアランス低下が、どのようなメカニズムで細胞内におけるタウの異常蓄積と神経細胞死を招いたのかについては今後更なる検討が必要である。
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