研究課題/領域番号 |
18K07389
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
久保山 友晴 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 助教 (10415151)
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研究分担者 |
東田 千尋 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 教授 (10272931)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HDAC3 / アルツハイマー病 / M2マイクログリア / 記憶改善 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病では、脳内にアミロイドβが沈着し、炎症反応が誘発され、その結果神経回路網が破綻し、記憶障害となる。脳内の唯一の免疫細胞であるマイクログリアには、炎症性のもの (M1) と抗炎症性・組織修復性のもの (M2) が存在する。私は、アルツハイマー病において、M1を減少させM2を増加させることができれば、記憶障害を改善できるのではないかと考えた。私は以前、ヒストン脱アセチル化酵素HDAC3を阻害することにより、損傷脊髄内でM1を減少させ、M2を増加させ、軸索伸長を誘発させ、結果として脊髄損傷マウスの運動機能が回復することを明らかにした。そこで本研究ではHDAC3阻害剤を用いて、M1の減少とM2の増加が、アルツハイマー病において記憶を回復させるかどうか、そしてそれはどのような機序なのかを分子的に明らかにし、“マイクログリアの質的改善によって、病因を除去することに加え、失われた脳機能を積極的に回復させる”というアルツハイマー病の根本的治療のためのストラテジーを確立することを目指した。 本年度はまず、アルツハイマー病モデルの5XFADマウスにHDAC3阻害剤を投与することにより、記憶改善作用が生じることを明らかにした。さらに、clophosomeを投与してマイクログリアを除去した5XFADマウスでは、HDAC3阻害剤による記憶改善作用が生じなかった。以上のことから、HDAC3阻害剤は、マイクログリアを介して記憶改善作用を示すことが明らかになった。 次に培養マイクログリアを用いた検討を行った。培養マイクログリアにアミロイドβを処置するとM1マイクログリアが増加するが、ここにHDAC3阻害剤を処置するとM2マイクログリアが増加することを明らかにした。 以上、HDAC3阻害剤がマイクログリアのM2化を介して抗アルツハイマー病作用を示す可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HDAC3阻害剤がマイクログリアのM2化を介してアルツハイマー病モデルマウスの記憶改善作用を示す可能性を示すことができ、当初の実験計画通り順調に進めることができた。ただし、マウスの脳の組織解析を行うことができなかったので、次年度以降の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
HDAC3阻害剤を投与したマウスの脳内で何が生じているのか、M2マイクログリアは脳内でどのような作用をもたらすのか、そのようにマイクログリアがM2化するのか、を今後明らかにしていく。そしてマイクログリアの機能を制御するエピジェネティックな遺伝子発現制御機構と、記憶改善との因果関係を解明し、マイクログリアをターゲットとする新たなアルツハイマー病根本治療のためのストラテジーを提唱する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画ではマウスの脳の組織解析を行う予定だったが、それを行うことができなかったため、購入予定だった抗体を購入しなかった。そのため使用金額に余剰が生じた。次年度使用額は、本年度購入予定だった抗体の購入費に充てる予定である。
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