平成30年度には、新規抗てんかん薬のうち、気分安定効果のあるラモトリギンのみが、神経幹細胞の自己複製能が亢進することをIn vitroでの研究法(ニューロスフェア法)で確認したので、令和2年度にはIn vitroでの解析を行った。成体マウスの脳においては側脳室の外側壁に面した脳室下帯(subventricular zone;SVZ)、および海馬歯状回顆粒細胞下層(subgranular zone of DG:SGZ)に神経幹細胞が局在することが知られている。又5-bromo-2’-deoxyuridine (BrdU)はチミジンアナログであり、細胞周期のS期に細胞内に取り込まれることから、神経新生のマーカーとして使用されているので、SVZやSGZを含む脳領域で免疫組織化学的手法により、BrdUの陽性細胞を解析した。 ラモトリギン(10 mg/kg)をC57BL/6系雄マウスに1、4、8、12週間連日腹腔内投与し、PBSを投与したマウスを対照群とした。16週齢あるいは20週齢時にBrdU(Sigma; 50 mg/kg)を腹腔内投与し、3時間後に灌流固定した。ラモトリギンを8週間投与したマウスにおいて、SEZおよびSGZにおいて陽性細胞が増加傾向であったが、有意差は認められなかった。12週間投与のラモトリギン群でSEZおよびSGZ共に、BrdU陽性細胞の有意な増加が認められた。SEZにはゆっくりとした分裂により自己複製する神経幹細胞(Type B cell)だけではなく、増殖の速い一過性増殖細胞(Type C cell)や新生ニューロン(Type A cell)も局在する。今回行ったBrduのshort-termの解析では神経回路で機能するニューロンの新生亢進は解析できないが、ラモトリギンは新生ニューロンを産み出すニューロンプールの大きさを増大させることが確認された。
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