筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)をはじめとする神経変性疾患においては、全ての神経細胞が障害を受けるのではなく、特徴的な神経細胞が選択的に障害され、その変性・脱落が時間の経過とともに他の領域へと進展する。どのような分子メカニズムにより選択的な脆弱性が賦与されているのかを理解することは新たな治療戦略の手立てを考える上で重要である。 ALSにおいて選択的に障害を受ける脊髄レベルの運動ニューロンのうち、FF-MN(速筋支配、易疲労性)が最も強く脆弱性を示す。我々はFF-MNに特異性を付与するDlk1がALS病態発現の場においては選択的な脆弱性を付与するのではないかと考えた。本研究においてDlk1は発生期のみならず中年期に至るまで野生型マウス脊髄前角細胞の核膜に発現されることが示された。さらにDlk1は細胞質内に凝集体を核内成分とともに形成していることが示された。Dlk1が加齢やストレス下での核から細胞質へのgenotoxic 核内成分の移送に関与する可能性を示唆した。Dlk1の核膜での発現はALS病態モデルマウスの脊髄前角細胞において細胞障害時期に一致して亢進していたこと、実際にin vitroにおいてDlk1はTDP-43細胞質凝集体形成を促進したことは、ALS病態下においてDlk1は核‐細胞質移送を促進しTDP-43細胞質凝集体形成に関与する可能性を示唆した。しかしながら他方、Dlk1は生理的にはTDP-43の細胞質への移送さらには細胞質での蛋白質分解を促進しTDP-43の細胞質凝集体形成を抑制している可能性は否定できない。いずれにおいても核―細胞質移送のメカニズムの一端として核膜Dlk1が関与しその機能異常がALS病態におけるTDP-43凝集体形成に、更にはFF-MNに対して選択的脆弱性を付与する可能性が示唆された。
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