我々は試験管内プリオン増幅法であるPMCAを通常反応温度(37℃)より高温(45℃)で行うことで野生型マウス(wt)バキュロウイルス-昆虫細胞系組換えPrP(Bac-PrP)がプリオン様構造であるプロテアーゼ抵抗性構造PrP(PrPres)へ自発的に変換することを明らかにしている。そこでまず、遺伝性プリオン病の遺伝子変異(P101L)を導入したP101LBac-PrPがBac-PrPresに変換し、遺伝性プリオン病様の病原性を示すかを調べた。P101LBac-PrP はPrPresに構造変換したが、その分子量はwtBac-PrPresより大きく、1アミノ酸置換によりBac-PrPresの立体構造が変化することが示唆された。wtBac-PrPresとP101L Bac-PrPresが感染性をもつか否かを野生型マウスに脳内接種した結果、接種から630日以上でwtBac-PrPresを接種したマウス7匹のうち3匹が発症しており、P101LBac-PrPresを接種したマウスについては、1匹のみ発症した。予想に反してP101LBac-PrPresの方が発症が遅い傾向にあった。 ポリアニオン等の既知補因子のみで構成したPMCAにより通常反応温度でもBac-PrPresが自発生成し、補因子の組成が異なると、それぞれ異なるタイプのBac-PrPresが生成することが明らかになった。4種類の異なるタイプのBac-PrPresを野生型マウスへ接種したところ、接種から630日以上ですべての実験区でプリオン病の発症または脳内でのPrPScの蓄積が認められた。そのうちのひとつは既知のFukuoka-1株と非常によく似ていたが、それ以外の3株は既知のマウス順化プリオン株とは異なっていると考えられた。現在PrPScの生化学的性状の解析を行っている。
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