研究課題/領域番号 |
18K07394
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
八坂 敏一 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (20568365)
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研究分担者 |
栗原 崇 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (60282745)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経障害性疼痛 / 脊髄後角 / ミクログリア / 局所神経回路 / インターニューロン |
研究実績の概要 |
末梢神経を損傷した場合に疼痛閾値が低下するケースがあり、神経障害性疼痛と呼ばれる病態の一つである。この病態には通常の鎮痛薬が奏効しないことが多く、原因解明と新規治療法の開発が急務である。この病態の動物モデルは確立しており、様々な研究が行われている。末梢神経損傷後、脊髄後角においてミクログリア(中枢神経系のマクロファージと呼ばれる)が増殖・活性化することがこの病態形成に深く関与していることが多く報告されている。これらの研究では、ミクログリアから放出される様々な分子が病態を引き起こすことに焦点が当てられているが、ニューロンとミクログリアの物理的な接触に関する報告はほとんど見られない。我々は、神経損傷後の脊髄後角において、ニューロンの一部にミクログリアが接触している像を観察した。この接触にどのような役割があるのかを調べるのが本研究課題の目的である。 脊髄後角のニューロンのほとんどはインターニューロンであり、大きく分けて興奮性と抑制性のグループがあり、さらにII層だけでも10種類以上の様々なニューロンが存在することが知られている。ミクログリアが接触しているのはニューロンの一部であるため、この現象に関わるニューロンには選択性がある可能性があると考えられた。それを確認するため、先ず抑制性ニューロンのマーカーであるPAX2の抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。その結果、特に選択性はない傾向が得られていた。しかし、解析を進めるうちに、今回用いた抗体は、バックグランドや非特異的な染色が多いことが判明した。この抗体は過去の論文で実績があったため信頼して用いたが、ロットの違い等により品質にばらつきがあったようである。そのため抗体の再検討が必要となり、異なる2種類の抗体について検討した。その結果、これらの抗体で特異性の高い染色が可能であることが分かった。今後この抗体を用いて解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はマウス神経障害性疼痛モデル動物の脊髄後角において、ミクログリアが接触しているニューロンが興奮性か抑制性かを同定することを目標としていた。しかし、本年度は免疫組織化学染色のトラブルシューティングに対応する必要に迫られ、時間を費やしてしまうこととなってしまった。研究実績の概要には、PAX2に対する1次抗体のトラブルについてのみ言及したが、実際には蛍光標識された2次抗体でも、予期しないトラブルに見舞われてしまった。最初に用いたPAX2の1次抗体はウサギ由来の抗体である。これまでは他のウサギ1次抗体を用いた染色において緑色光や赤色光では問題なく観察できていた。今回4重染色する必要があり、これまでとは異なる色での観察を行った。2次抗体自体はこれまで問題なく使用できていたメーカーの同じもので、色の異なる標識のものを使用した。すると非常にバックグラウンドが高くなってしまった。実績のあった2次抗体であったので、2次抗体自体には問題ないと考えていたが、他の色で標識された2次抗体で検証した結果、2次抗体にも問題があることが分かった。1次抗体と2次抗体の両方に問題が生じ、トラブルシューティングに多くの時間を費やしてしまった。現在、トラブルは解消できたため、今後は、計画していた実験にようやく取り掛かれる状況に至った。また、PAX2は抑制性ニューロンの分化に必要な転写因子であるため、抑制性ニューロンのマーカーとして用いられているが、実際に成獣のマウスにおいてそれを検証した論文は未だにないようである。ラットについては一つ報告があるが、グリシン作動性とGABA作動性との区別がなされておらず、未だ結論には達していないと考えている。このため、PAX2抗体による抑制性ニューロンの染色に関しても検証を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、先ず現在行っているミクログリアが接触しているニューロンが興奮性か抑制性かという選択性があるかどうかについて結論付ける。その結果、どちらかに特異性が確認された場合、さらにそのサブグループのマーカーによりそれらに選択性があるのかどうかを調べる。また、興奮性か抑制性かについて特異性がなかった場合にも、興奮性にも抑制性にも一部の細胞で発現するような分子について検証する。一方で、PAX2抗体による抑制性ニューロンの染色についても検討を引き続き行う。今回研究対象としているニューロンとミクログリアの接触はニューロンの細胞体で観察されているものである。この接触が細胞体に存在するシナプス入力数を変化させているかどうかを調べる。一般的にはニューロンの細胞体には興奮性シナプスはあまり存在せず、抑制性シナプスが存在する。これまでに行った予備実験においても同様の結果が得られており、本研究では抑制性シナプスに焦点を当てて検討することとする。これらのシナプスは、ミクログリアが接触することによって除去されてしまう可能性がある。その可能性を検討するため、抑制性シナプスのマーカーを用いた免疫染色を行う。予備実験を行った結果、通常行っているZ軸方向の厚みが10ミクロンのサンプリング方法では十分な観察ができない可能性が考えられた。この実験ではデータセットに細胞体全体が含まれることが望ましいが、10ミクロンの厚みでは細胞体全てが含まれる細胞が非常に少ないことが明らかとなった。この点を解消するため、先ず細胞体全体を効率よく観察できる標本の厚みを検討する必要がある。これらを検討した後、シナプス数をカウントする作業を行い、ニューロンとミクログリアの接触とシナプス数に間に関連性があるかどうかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は20,358の次年度使用額が生じた。その理由として、参加した学会(9th FAOPS Congress)が年度の最後(3月28日から31日)に行われたことが関係している。この学会に参加するための経費を使用せずに残しておいたが、その見積額が実際の額よりも若干多かったためである。3月に入り、必要経費を計算し、残高が出ることが判明したが、残り少ない年度内に使用するよりも、次年度の使用とした方が有効に使用できると考え、繰り越すこととした。次年度の予算(直接経費100万円)と合わせて使用予定である。繰り越し分は物品費(消耗品、備品等)として使用を予定している。しかし、小額であるため計画全体に大きな影響を与えることはなく、計画の変更は必要ないと考えられる。
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