研究課題/領域番号 |
18K07397
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
原 由紀子 (宍戸) 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40313267)
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研究分担者 |
三須 建郎 東北大学, 大学病院, 講師 (00396491)
中道 一生 国立感染症研究所, ウイルス第一部, 主任研究官 (50348190)
高橋 礼典 東京医科大学, 医学部, 准教授 (50453725)
長尾 俊孝 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (90276709)
鹿戸 将史 山形大学, 医学部, 教授 (90400572)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 進行性多巣性白質脳症 / JCウイルス / PML / 宿主免疫応答 / 予後 |
研究実績の概要 |
進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)は、JCウイルス感染による脱髄脳症である。当初、悪性リンパ腫の合併症として報告された本疾患は、1980年代にAIDS流行に伴い症例数が増加した。JCウイルスは、人口の大半(約80%)に感染するが、宿主の免疫能が機能していればPML発症には至らない。JCウイルスは、免疫能が低下した宿主において活性化する。PMLは極めて予後不良な疾患であったが、近年では、抗ウイルス免疫応答のある宿主にもPMLが発症することが明らかになり、比較的良好な予後を示すことが解ってきた。 薬剤関連PMLは、抗ウイルス免疫応答の残された宿主に発生し、AIDS合併症例と比較すると、比較的良好な予後を示すことが知られている。MRIによるPML初期病変の検出は極めて重要であり、近年、我々はPML病変形成過程を明らかにした。経時的なMRI画像変化と、剖検脳の組織学的検索から、PML病変は、A)中心前回・前頭回を含む大脳病変、B)深部灰白質・脳幹を含む縦走病変、C)小脳・脳幹病変(テント下病変)、D)深部白質の粟粒状病変の4パターンに分類され、それぞれ、1st STEP:initiation、2nd STEP: extension/expansion, 3rd STEP: fusionの過程を経て形成される。病変は、神経線維の走行に沿って伸展・融合することも明らかになった。また、高頻度に炎症細胞浸潤を伴い、ウイルスに対する宿主の免疫応答は、良好な予後に関与することに関しても、新たな知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、経時的なMRI画像所見と、病理解剖で得られた脳の所見を比較し、PML病変の形成パターンについて明らかなすることができた。結果は、Neuropathology誌に発表し、本論文は出版社(Wiley)においてダウンロード数が上位10%に入るなど、世界レベルで高い評価が得られた。また、日本病理学会から学会賞を受賞するに至った。 今年度はさらに、宿主の免疫応答についての解析も進めている。宿主の抗ウイルス免疫応答は、病理学的に、脳の血管周囲での炎症細胞浸潤として捉えられるが、T細胞に加え、B細胞や形質細胞も浸潤するのが特徴である。またしばしば、clonarityの制限が見られることも明らかになり、JCウイルスに対して特異的な宿主免疫応答が起きていると推測された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、宿主免疫応答の解析をさらに進める予定である。PML診療にたずさわる臨床医からの質問で最も多いのが、PMLに合併した免疫再構築症候群(IRIS)についてである。しばしば、宿主免疫システムは、JCウイルスに対して過剰な反応を示し、予後不良なPML-IRISをきたす。一方で、秩序の保たれた宿主免疫応答は、予後良好なPML-IRISとして知られているが、両者の病理学的、免疫学的な相違は明らかになっていない。今後、炎症を伴ったPML病変で、浸潤してくる炎症細胞の量や質(profiling)を解析し、複雑な抗ウイルス免疫応答について研究をすすめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究から、重要な研究成果を得ることができたが、まだ英語論文として発表できていないデータが残されている。次年度使用額は、英語論文の出版費用に充てたいと考えている。
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