研究課題/領域番号 |
18K07401
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
大西 克典 久留米大学, 医学部, 助教 (10626865)
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研究分担者 |
河原 幸江 久留米大学, 医学部, 准教授 (10279135)
西 昭徳 久留米大学, 医学部, 教授 (50228144)
大西 陽子 久留米大学, 医学部, 助教 (70727586)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 依存症 / ストレス / 転写因子 / マウス / 行動実験 / コカイン / AP-1 / うつ病 |
研究実績の概要 |
薬物の依存症は、気持ちの良い体験、かつそれに対する嗜好性と行動が伴っています。マウスを用いた場合、その実験手法として、薬物投与で行動量が徐々に上がっていくsensitization、および場所嗜好性試験(CPP)で薬物サイドの箱にどれだけ滞在するかを測定します。 Sensitizationは同じ場所でしか上昇していかないため、周囲の環境の認知状態も反応性に関与していることが示唆されています。また、CPPでは、薬物そのものではなく、それに関連づけた場所を求める行動を測定しており、これもまた場所の認知との関係と切り離せいない問題を抱えています。 本研究はストレス下での依存症悪化の治療法の探索が目的ですが、以上の事実に則って、状況と認知の問題を原点から見つめ直して、別の角度から再検討しているところです。 一つはメスがオスを求める行動です。これは対象が欲求の対象と一致しているのと、行動に認知のずれや気まぐれが入る余地がほとんどないため、かなり正確に結果を得ることを出来ることがわかりました。また、薬物としてコカインを使用していますが、そのコカインがどれだけ認知は判断力に影響しているかはあまり検討されていません。そこで、コカインがメスのオスに対する嗜好性にどれほどの影響を与えるのか。ストレスがオスのモテ度を下げるのかといった認知と嗜好性に対する影響を調べています。 もう一つはsensitizationと嗜好性がどのような神経ネットワークで制御されているかについてです。我々はこの点についても、それぞれが別の経路を介して制御されている知見を得ており、その伝達経路について詳細に調べて、それがストレス下での依存性と同じ経路であるのかどうかを検討していく予定です。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メスのオスに対する嗜好性試験の実験系を新たに立ち上げた。大きな白い箱の四隅に透明で隙間のある檻を4つ置き、それぞれに同腹のオスを一匹ずつセットし、中央にメスを配置して、コカインCPPと同じ20分間自由に行動させて、カメラでトラッキングし、オスに対する嗜好性を測定しました。意外なことに少ない数で有意差を得ることが出来ました。このことは認知の対象と求めるものが同じであり、かつ、性行動の刺激を除外できているためと考えられました。逆にそのせいもあってか、2日目、3日目には同じデータは取れませんでした。人の実生活により近いモデルで今回の実験系の性質を調べるために各種の予備実験を試しており、その特性が人に非常に近いことが分かってきています。 薬物依存に関しては、状況とその認知の問題が反応にかなり影響することを同定しました。一般的に依存性は腹側被蓋野から側坐核への投射経路、とくに側坐核でのD1受容体発現中型有棘神経が重要な働きをしていることが推測されています。腹側被蓋野からドーパミンが放出されており、報酬刺激と連動してドーパミンが放出されることが予測されていますが、マイクロダイアリシスで測定したところ、局所的なドーパミン濃度を引き上げるコカイン投与後だと上がるのですが、コカインを連続投与した箱に入れるだけだと増えませんでした。上記のオスの嗜好性試験においても、メスの側坐核のドーパミン濃度を測定したところ、好みのオスかどうかによってその反応性に違いがありました。このように期待と認知の状況により、ドーパミンの反応性には意外とバラエティーがあることがわかりました。
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今後の研究の推進方策 |
認知と嗜好性、ストレスによる嗜好性強化、さらに自然報酬系と薬物依存性のクロストークといった観点から立体的にそれらのメカニズムや生物の生理学的な反応性の違いを見出していきたいと考えています。従来は一つの対象物、もしくは二者択一の実験でその反応性を評価することが多かったのですが、実生活ではそれよりも多数の選択肢があります。その際の行動様式がどう変わるのかに注目して調べていく予定です。認知の問題も関係していることから、腹側被蓋野と側坐核だけでなく、前頭葉の関与も検討中で有意なデータも取れています。さらに我々は側坐核にあるアセチルコリン作動性神経細胞機能の有無で、コカイン、嗜好性のある餌、異性のマウスに対してドーパミン放出が制御されていることを見出し、論文として発表しました。この細胞特性と依存性や嗜好性がどの程度関係しているのかについても検討する予定です。
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次年度使用額が生じた理由 |
久留米大学では動物実験施設が数十年ぶりに建て替えられたため、その移転の間、実験の縮小が必要だったのと、新しい施設で必要な物品が多いため来年度予算として組み直した。
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