研究課題/領域番号 |
18K07402
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
笹栗 弘貴 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 副チームリーダー (10783053)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / プレセニリン / アミロイドβ / 認知症 / モデルマウス / ゲノム編集 / 塩基編集 / ノックイン法 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)は、認知症の原因疾患として最多の疾患であり、原因不明の神経変性疾患である。プレセニリン1(PSEN1)遺伝子の変異は、常染色体優性遺伝形式を示す家族性ADにおいて最も頻度が高い原因遺伝子変異であり、これまでに300以上の変異が報告されているが、PSEN1変異によるAD発症のメカニズムは十分解明されていない。本研究課題では、最新のゲノム編集技術を駆使し、変異Psen1モデルマウスを複数系統作出した上で、詳細に生化学的・病理学的解析を行い、比較検証することで、特に脳内アミロイドβ(Aβ)産生プロファイルの異常とAD病態との関連に着目し、PSEN1変異によるAD発症の機序を解明することを目的とする。 2019年度は、2018年度までにゲノム編集技術を利用して作製した複数の変異Psen1マウス系統を交配、繁殖させた。新しく作出した変異Psen1マウスの脳内Aβプロファイルを評価したところ、生体内でのAβプロファイルは過去の培養細胞系で示されていた結果と異なることが判明し、臨床的に報告されている変異の効果を生体で検証することの重要性を確認した。現在、より詳細に変異Psen1の効果を検証するため、複数の変異Psen1マウス系統の脳試料サンプリングを継続している。また、脳内アミロイド病理を評価するため、App遺伝子にSwedish変異を有するAppNL-KIマウスとの交配を行い、個体を作出している。 これらの研究成果は、2019年5月日本神経学会学術大会(大阪)、2019年6月日本ゲノム編集学会(東京)、2019年7月Alzheimer’s Association International Conference(Los Angeles)、2019年11月日本認知症学会(東京)にて、それぞれポスター発表を行った。2019年度は原著論文の発表はない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Aβ産生プロファイルの異常とAD病態の関連を明らかにするという、本研究課題の最終的な目的を達成するため、2019年度は、2018年度にCRISPR/Cas9やその変法を駆使して作出した変異Psen1マウス3系統(PS1-V94M、PS1-P117A、PS1-P436S)に加え、当研究室で所有していたPS1-R278Iマウスを繁殖させつつ、新しく作出した変異Psen1マウスの脳内Aβ産生プロファイルの解析を行った。 新しく作出したPS1-V94M、PS1-P117A、PS1-P436Sマウスのヘテロ接合体での脳内Aβ産生プロファイルを解析した結果、PS1-V94Mマウスは野生型と同等、PS1-P117AマウスはAβ40減少、Aβ42著増、PS1-P436SマウスはAβ40減少、Aβ42増加と、それぞれ異なる産生パターンを示した。また、PS1-R278Iマウス脳ではAβ40減少、Aβ42不変というパターンとなることが示されている。これらのAβ産生パターンは、過去の培養細胞を利用した論文の結果(Sun L, PNAS 2017)と異なっており、臨床的に報告されている変異の効果を生体で検証することの重要性が示された。 PS1-R278Iホモ接合型のマウスは、PS1タンパク質が酵素活性を担うγセクレターゼ複合体の別の基質であるNotch1レセプターのプロセシングへの影響から、胎生致死であることが知られている。そのため、現在、各変異のホモ接合型でのAβ産生、Notch1シグナルへの影響を調べる目的で、胎児での脳試料サンプリングを行っている。更に、変異Psen1のAD病態、病理への影響をより詳細に評価するため、内因性マウスApp遺伝子にSwedish変異を有するAppNL-KIマウスと変異Psen1マウスの交配を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
本来の研究計画に沿った研究成果が得られており、引き続き当初の計画にのっとって研究を推進していく。 2020年度は、変異Psen1ホモ接合型のマウス胎児脳組織を用い、WBでPS1の発現量や断片化の評価、ELISAによるマウス脳のAβ40、Aβ42の産生パターンの評価に加え、Notch1レセプターの切断への影響を評価する。これにより、変異Psen1のAD病態への影響のみでなく、PS1の発達期における役割、および基質複合体形成を含むγセクレターゼの酵素反応の機序を検証できる。 また、マウスAβはヒトAβと配列が一部異なり、凝集性が低いため、Psen1変異をマウスに導入しただけではアミロイド斑(老人斑)などのAD病理を再現、評価することができない。この点を打開するため、内因性マウスApp遺伝子にSwedish変異を有するAppNL-KIマウスと変異Psen1マウスの交配を開始している。このAppNLマウスは、脳内アミロイド病理はみられないが、Aβの総産生量が増加しており、Aβプロファイルの変化を解析するのに適したモデルである。また、AppNLマウスにPsen1変異が加わることで脳アミロイド病理が出現するかを評価し、Psen1変異の病原性を検証することが可能である。これらのマウスを生化学的、病理学的に詳細に解析し、変異Psen1によるAD発症の機序を解明する。 更に、一細胞解析を含むRNA配列解析により、脳部位ごとの、また神経細胞やグリア細胞など細胞種ごとのPsen1変異の影響を評価する実験系の構築を検討する。
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