研究課題
前年度における本報告では、「概要」において「この開発(「メタゲノム的手法の導入による、さらなる意義を持つ臨床細菌検査」)においては、DNAメチル化解析を組み合わせることで菌株情報を追加的に取得することを試みている」と述べ、さらに「今後の研究の進進方策」において、克服すべき課題として「微量のDNAからのメタゲノム解析を念頭に、PCR増幅をメチル化解析前に組み込もうとすると、ノイズ的な増幅がしばしばコンタミネーションしてしまう点」があると述べた。今年度における研究開発では、やはり前年度に述べた通りに「メタゲノムがここまで急速に発展しているのはPCR増幅により比較的少量なDNAで解析がスタートできるという事が理由の一つであるため、できればPCR増幅は本研究開発においても採用」することを主たる標的に行った。詳細は「研究の進捗」欄で述べるが、そもそもに本研究は臨床細菌検査の開発におけるものであるため、今年度においては解析対象に大腸菌K12株のようあな極めて実験用に標準化された株だけではなく、ルーチンの臨床検査で得られた薬剤耐性株および、さらには臨床検体から分離された細菌叢を直接解析対象とすることにチャレンジした。ところが、今年度においては研究用の菌株のみならず、臨床からの分離株(薬剤耐性株)においても、メタゲノム解析で多く解析対象とされる菌ゲノムDNAについて、解析手法の工夫によってメチル化解析が可能であると思わせるデータを再現良く得ることができている。さらには、臨床検体から直接分離した細菌叢(培養を経ていない)についてNGS(次世代シーケンサー)を用いて同様の工夫を添えて解析を行ったところ、やはりメチル化解析が可能であると思わせるデータを得ることができ、これは本研究開発の目的をメチル化解析を通じて達成可能とするものであるという可能性を示唆するものであると考えている。
2: おおむね順調に進展している
前年度においてはK12株においてすら培養によるプラスミドDNA増幅のような古典的な、PCRを用いない増幅法によってしかメチル化解析を行うことができなかった。これはつまり16SrRNA遺伝子のようなメタゲノムに多く用いられる領域を含め細菌ゲノムDNAのメチル化解析がなかなかに難しかったことを意味していた。しかし、今年度においては工夫を行うことによりPCR法を増幅過程に組み込んでも、ノイズ的な増幅を程々におさえつつメチル化検出を行うことに成功しつつある。具体的には研究用の大腸菌株においては、DNAメチル化状態が既に十分に知られている株が存在するが、それらを用いて既報の通りのメチル化状態が検出できるものか、工夫を加えPCR法を増幅過程に組み込む手法で得たDNAを用いて検討したところ、既報と全く一致した結果を得られることが分かった。さらに、この手法を用いて臨床からの薬剤耐性株を解析したところ、やはり増幅されたDNAからメチル化状態を解析できるデータが得られつつある。さらに臨床検体から直接分離した細菌叢(培養を経ていない)について、本手法で得られたDNAをNGS(次世代シーケンサー)解析を行ったところ、やはり、このような培養を経ない細菌叢でもメチル化状態を解析できるデータが得られるようであり、これはつまり、単にメタゲノム的手法を臨床検査に応用するだけではなく、さらなる意義を付与するという本研究開発の目的をメチル化解析を通じて達成可能とするものであるという可能性を示唆するものであると考えている。
「研究の進捗」で述べた通りに臨床から分離された薬剤耐性株や細菌叢において、そのゲノムのDNAメチル化状態を解析できるデータが得られつつある。しかしながら、特にNGS(次世代シーケンサー)解析によって得られる状態は大量であり、かつ、その中には未報告の現象と思われるものも相当にあり、その真偽の判定や確からしさの検討を、まずは推進し現在行っている解析の工夫が妥当なものであるか検討を行う必要がある。次年度は本研究開発の最終年度であるが、臨床から分離される細菌叢は極めて多様な細菌の構成を持つため、これに、さらにメチル化解析まで加えた場合にNGS(次世代シーケンサー)解析によって得られるデータはあまりに膨大であることが見込まれ、現在以上に解析対象を広げるというよりは前述の妥当性の検討を重視して推進したい。
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