プロレニン受容体(PRR)は、加齢マウスおよびヒト高齢者の骨格筋において発現上昇しており、PRRを全身に高発現させたPRRトランスジェニック(Tg)マウスは、骨格筋、特に速筋が強く萎縮したサルコペニアの表現型を呈した。AAVにより骨格筋選択的にPRRを発現したところ筋肉が萎縮し、骨格筋のPRR発現が直接萎縮を誘導していることが確認できた。本マウスの骨格筋(速筋)では、Wnt/βカテニンシグナルが活性化しており、Wntシグナル阻害薬DKK1で筋萎縮が改善した。 in vivoでWnt受容体とPRRの結合を阻害する中和抗体の投与を行なったところ、PRR Tgマウスにおいて活性化していたWntシグナルは抑制され、老化や線維化のマーカーの改善とともに、萎縮骨格筋の肥厚も確認された。筋傷害後の再生過程も検証したところ、PRR Tgマウスに中和抗体を投与した群においては細胞融合が良好に進み、再生筋線維の肥厚が改善した。加齢野生型マウスに中和抗体を投与したところ、非傷害下では筋線維の肥厚は確認できなかったが、カルジオトキシン投与下では中和抗体による筋再生の改善が確認された。 Wntシグナルと協調的に作用するYAPシグナルについても、老化マウスとPRR Tgマウスそれぞれの速筋で強く活性化していた。YAPシグナル経路がサルコペニア発症に寄与しているか明らかにするため、YAP阻害薬verteporphinの投与を行なったところ、PRR安定発現C2C12筋細胞株において筋管形成能が改善し、PRR Tgマウスでは筋線維の肥厚が確認された。WntおよびYAPの阻害薬を用いることで、PRRの活性化に基づくサルコペニア機構においてはWntシグナルの下流にYAPが位置していることが明らかとなった。
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