研究課題/領域番号 |
18K07428
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
姜 美子 東邦大学, 医学部, 非常勤研究生 (00624066)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脂肪細胞 / LR11 / ブラウニング |
研究実績の概要 |
『成熟細胞の病的フェノタイプ変換』は病態検査学の基礎研究課題である。これまでに研究代表者は、可溶性受容体LR11が血管平滑筋細胞をシンセティックフェノタイプに、皮下脂肪細胞をブラウニングフェノタイプに、それぞれトランスディファレンシエーションさせ、その遺伝子をノックアウトすると血管傷害後の動脈硬化や過食による肥満に著しい抵抗性を示すことを報告した。本研究の目的は、成熟脂肪細胞の病的フェノタイプ変換におけるネガティブレギュレータLR11を介したブラウニング細胞へのトランスディファレンシエーション制御を明らかにすることである。また、糖尿病と肥満症におけるエネルギー消費を反映する肥満症細胞マーカーとしての血中可溶性LR11濃度の検体検査学的意義を多施設共同研究により検討する。これまでに、LR11ノックアウトマウス及び野生型マウス白色脂肪、褐色脂肪から均一化した前脂肪細胞を調整した。それぞれの細胞を用いて褐色脂肪化条件で分化誘導した成熟脂肪細胞における褐色脂肪機能に重要なUCP1遺伝子発現のノルエピネフリン投与前後の定量解析を行い、LR11ノックアウトマウス白色脂肪由来成熟脂肪では野生型マウス白色脂肪由来成熟脂肪に比べて、ノルエピネフリン投与に関わらず著しく増大していることが明らかになった。令和2年度は平成30年度、令和元年度に得られたマウス脂肪細胞株とともにヒト脂肪組織由来初代前脂肪細胞の生体同様の培養環境における分化成熟能と褐色脂肪機能、遺伝子発現を網羅的に解析し、LR11の関与の視点から検討する。また、糖尿病患者で異常値を示すことが明らかになった血中可溶性LR11の検体解析のために共同研究施設である中国延辺大学で収集解析した約300名のデータから、病態と可溶性LR11、LR11遺伝子多型の関係について解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は、①可溶性LR11によるブラウニング調節機序(LR11ノックアウトマウス白色脂肪、褐色脂肪、および対照として野生型マウスの皮下脂肪と褐色脂肪から均一化した前脂肪細胞を調整し、それぞれ不死化細胞を樹立し、褐色脂肪化条件で分化誘導した成熟脂肪細胞における褐色脂肪機能に関わる特徴的な遺伝子発現の定量解析を行う)、②血中可溶性LR11濃度の検体解析(検体研究を展開し、糖尿病合併症症例、肥満症治療症例の血中可溶性LR11値の病態関連解析を行う)であり、初年度、計画通り、課題①のための野生型マウス、LR11ノックアウトマウス白色脂肪、褐色脂肪から初代前脂肪細胞を調整し複数の不死化クローンの樹立に成功し、今年度に褐色機能に関わる遺伝子発現の定量解析を行い、さらにヒト樹立脂肪細胞と合わせてLR11とUCP1遺伝子の関連制御を明らかにした。また、課題②のために中国延辺大学の健常人と糖尿病、糖尿病合併症の患者の検体を計約300名収集することができ、血中LR11濃度と遺伝子多型を解析し、次年度解析が可能となった。以上より、初年度、今年度の研究計画をおおむね順調に達成したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度、研究計画に沿って、LR11ノックアウトマウスと野生型マウスの白色脂肪、褐色脂肪から均一化した前脂肪細胞を調整に成功した。計画通りに、それをもとにSV40を導入した不死化処理を行い複数のクローンを樹立した。すでに解析しているマウス初代前脂肪細胞やヒト樹立脂肪細胞とともに、今後、不死化細胞を様々な培養条件下で分化能や脂肪細胞形態について解析する。とりわけ、野生型細胞とLR11ノックアウトマウス由来白色脂肪細胞の褐色脂肪分化条件とノルエピネフリン刺激におけるUCP1遺伝子発現の反応性、LR11ノックアウトマウス由来脂肪細胞の褐色脂肪分化条件における形態学的反応性(単胞性スーパーベージュ細胞)を定量的に解析する。また、中国延辺大学で収集した糖尿病合併症における検査結果のデータベースを用い、血中LR11値の意義(脂肪細胞ブラウニング検出)を、遺伝子多型と糖尿病の病態指標との関連から明らかにする統計解析を開始する。
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