研究課題
『成熟細胞の病的フェノタイプ変換』は病態検査学の基礎研究課題である。これまでに研究代表者は、LDLレセプタースーパーファミリーLR11が、血管平滑筋細胞や皮下脂肪細胞をディファレンシエーションすることを抑制し、その遺伝子がノックアウトされるとディファレンシエーションが促され、動脈硬化や肥満に著しい抵抗性を示すことを報告した。本研究の目的は、成熟脂肪細胞の病的フェノタイプ変換におけるネガティブレギュレータLR11に焦点を当て、ブラウニング細胞へのトランスディファレンシエーション制御を解明することである。これまでに、マウス脂肪からMesenchymal stromal cell (MSCs)を調整し二次元培養ブラウニングにおけるUCP1発現を明らかにした。令和4年度はマウス脂肪細胞株とともにヒト脂肪組織由来MSCsの三次元環境における分化成熟能と褐色脂肪遺伝子発現を検討した。二次元培養ブラウニング脂肪細胞は褐色脂肪細胞に特徴的な多胞性形態とUCP1発現誘導を示すのに対して、三次元成熟脂肪細胞はベージュ脂肪細胞に特徴的な単胞性形態とUCP1発現を示した。この2種類のブラウニング細胞の間でLR11の発現誘導は異なっていたことから、その調節が白色、褐色、ベージュという脂肪細胞タイプ間のトランスディファレンシエーションに関わることが示唆された。さらに、UCP1発現誘導はLR11欠損細胞で増大することから、LR11発現の差異がベージュ脂肪と褐色脂肪の形成に関わる可能性がある。今後、本研究で樹立した細胞培養系を用いて解析することで分子機序が明らかになることが期待される。一方、ヒト検体解析により血中可溶性LR11が動脈硬化で高値を示した。可溶性LR11はブラウニングトランスディファレンシエーションの制御破綻により起きる動脈硬化の病態を表す血中検査マーカーになる可能性がある。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Circ J
巻: 86 ページ: 977-983
10.1253/circj.CJ-20-1271