研究課題/領域番号 |
18K07430
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
丸山 和佳子 愛知学院大学, 心身科学部, 教授 (20333396)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / 神経老化 / 口腔炎症 / シヌクレイン / 脂質過酸化 |
研究実績の概要 |
本研究課題ではパーキンソン病(PD)の病因について、神経老化の観点で研究を行った。PDにおける神経細胞死の原因は不明であるが、構造異常をきたしたalpha-synuclein (aS)タンパク質が細胞内ホメオスタシス、特にタンパク質分解系の破綻を介し細胞死を誘導することが想定されている。近年となり、消化管に分布する自律神経終末において構造異常aSが生成され、中枢神経へと軸索輸送された結果、毒性をもつaSのseed(種)が形成されるとの仮説が脚光を浴びている。申請者はaSの構造変化のtriggerとして、「膜脂質由来の過酸化物によるaSの酸化修飾」に着目して研究を行った。神経細胞の細胞膜を構成する多価不飽和脂肪酸は抗酸化機能を持つと同時に反応性に富んだ脂質ラジカルの前駆体となる。加齢に伴う脳の生化学的変化として、脂質アルデヒド修飾タンパク質の蓄積が報告されている。2018年度の研究で、aSはin vitroで脂質由来のラジカルと反応することでそれをを消去すると同時に、自らは酸化修飾体となることでタンパク質の高次構造変化が引き起こされることを報告した。2019年度は2018年度に引き続きaSを強制発現したヒト神経芽細胞腫細胞を用いたモデル実験を行い、脂質アルデヒド修飾aSの分解系について検討を行なっている。さらに、2019年度は臨床患者サンプルの解析について予備的研究を行った。口腔は消化管の中では最も吻側に存在し、肉眼的な観察により炎症の評価が可能であるとともにサンプル採取が容易である。施設入所高齢者由来サンプルの解析の結果、口腔内炎症所見と唾液中炎症マーカー及び生活機能自立度には相関が認められるとの結果が得られた (西口ら、2019、Nishiguchi K. et al.,submitted)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(2018年度)は、培養細胞を用いたモデル研究によって、alpha-synuclein (aS)タンパク質の生理的機能が脂質過酸化物のスカベンジャーであることを示唆する結果を得ることができた。老化の原因である「酸化ストレス」の物質的基盤としての酸化修飾タンパク質、特に膜脂質由来の酸化脂質によるaSタンパク付加体の生成について理論的裏づけを得た。2019年度は、細胞実験を発展させ、酸化脂質修飾タンパク質の分解系について詳細な検討を行い、リソソームオートファジー系の障害が酸化修飾aSにより引き起こされることを示す結果を得た。さらに、高齢者の消化管、特に口腔内において脂質過酸化が亢進していることを証明するための臨床研究に着手した。倫理委員会の承認を受け、名古屋大学医学部神経内科および愛知学院大学歯学部との共同研究により、施設入所高齢者13例、歯科外来通院患者15例、神経内科パーキンソン外来通院患者12例の唾液サンプルを収集した。施設入所者の唾液の解析により、口腔内炎症(歯肉炎、歯周病)の臨床的重症度と唾液中ミエロペルオキシダーゼ活性に有意な正の相関が認められることが見出された。血液中のミエロペルオキシダーゼは主に活性化好中球から放出され、クロルラジカル産生を介して脂質アルデヒドの生成を亢進させる。血液中ミエロペルオキシダーゼの増加は心血管イベントの予知因子であり、粥状動脈硬化巣における脂質アルデヒドとミエロペルオキシダーゼの共存が報告されている。同様な反応が口腔内で惹起されるとすれば、ミエロペルオキシダーゼ活性の増加により脂質過酸化修飾タンパク質の増加が引き起こされることが予測される。以上より研究の進行は概ね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
口腔内炎症により唾液中で増加したミエロペルオキシダーゼにより、脂質過酸化が促進されているか否かを、脂質アルデヒド(マロンジアルデヒド、4-ヒドロキシノネナールなど)を中心に検討する。申請者らはこれらの酸化修飾タンパク質に対する特異抗体の開発に長年関わってきた。また、臨床サンプルの解析に関しても多くの経験があるため、解析法に関しては問題無い。さらに、パーキンソン病患者と正常対照で唾液サンプル中のミエロペルオキシダーゼ活性、および脂質アルデヒド量に差が認められるかを明らかとする。パーキンソン病患者の唾液腺にはaSの蓄積が観察されることが報告されている(Adler CH et al., Neurology, 2014)。細胞モデルで得られた酸化修飾aS、特に酸化脂質の付加したaSの存在をパーキンソン病患者の口腔サンプル(唾液)で同定することを目標とする。パーキンソン病においては口渇を含む自律神経障害がしばしば発症に先立って認められる。唾液解析の結果、口腔内炎症マーカーがパーキンソン病発症前診断に有用である可能性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月分の謝金・賃金を4月に支払いする必要が生じたため。
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