研究実績の概要 |
本研究課題ではパーキンソン病(PD)の病因について、神経老化の観点で研究を行った。PDにおける神経細胞死の原因は不明であるが、構造異常をきたしたalpha-synuclein (aS)タンパク質が毒性を持ち細胞死を誘導することが想定されている。申請者はaSの構造変化のtriggerとして、「膜脂質由来の過酸化物によるaSの酸化修飾」に着目して研究を行った。神経細胞の細胞膜を構成する多価不飽和脂肪酸は抗酸化機能を持つと同時に反応性に富んだ脂質ラジカルの前駆体となる。加齢に伴う脳の生化学的変化として、脂質アルデヒド修飾タンパク質の蓄積が報告されている。aSを強制発現させた神経細胞モデル実験により、aSが恒常的に膜脂質由来の脂質ラジカルをquenchすることで細胞傷害を抑制しており、その結果生成された脂質アルデヒド修飾aSはautophagy-lysosome 系により分解されていることを見出した。近年、消化管に分布する自律神経終末において構造異常aSが生成され、中枢神経へと軸索輸送された結果、毒性をもつaSのseed(種)が形成されるとの仮説が脚光を浴びている。口腔は消化管の中では最も吻側に存在し、肉眼的な観察により炎症の評価が可能であるとともにサンプル採取が容易である。しかしながら口腔は外界に接しているためその環境は不安定であり、口腔炎症を定量的に評価する方法論は確立されていない。ミエロペルオキシダーゼ (myeloperoxidase, MPO) は活性化された好中球やマクロファージなどから放出されるラジカル生成酵素であり、自然免疫の指標である。施設入所高齢者の唾液中のMPO活性を測定した結果、口腔内炎症所見と唾液中MPOには相関が認められた。さらに、パーキンソン病患者の唾液中MPO活性は正常対照に比較して増加していることが見出されたため、現在解析を続行中である。
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