研究課題/領域番号 |
18K07432
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研究機関 | 姫路獨協大学 |
研究代表者 |
通山 由美 姫路獨協大学, 薬学部, 教授 (70362770)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 好中球 |
研究実績の概要 |
Neutrophil extracellular traps(NETs)は、好中球のクロマチンが網状構造に変化して病原微生物を捉える生体防御機構である。近年、NETs成分が血小板を刺激して血栓症を誘発することが新たな病態として注目されている。本研究では、NETs形成の分子機構の解明、血小板血栓を惹起するNETs成分の同定、さらに血栓症の早期診断法の開発を目ざしている。 これまでの研究で、1)質量分析法によりNETs形成過程に特異的な翻訳後修飾を含むタンパク質を見いだし、2)遺伝子編集技術(CRISPR/Cas9)を利用して候補タンパク質のノックアウト(KO)型好中球モデルを作成した。そこで令和1年度は、KO型好中球モデルを用いてNETs形成への影響を解析するとともに、NETs形成で放出される分子の中で、血小板を刺激する候補分子を探索した。具体的には、ヒト白血病細胞株、HL60を親株として、PDIファミリータンパク質のP4HB、プロテインS100ファミリータンパク質のプロテインS100A8およびS100A9、チロシンキナーゼ、SykのKO細胞について取り組んだ。HL60および各分子のKO型HL60細胞を、ATRA(All-trans retinoic Acid)刺激で好中球様に分化し、1)好中球に特有の分葉核の形成および補体受容体の発現、2)食作用に伴う活性酸素の産生量、3)NETs形成により放出されるタンパク質について解析した。その結果、1)P4HB-KOにより核分葉が抑制されること、2)Syk-KOにより活性酸素産生が抑制されること、3)親株であるHL60では、NETs形成に伴い、プロテインS100A8とS100A9が、炎症性サイトカインと共に放出されることを見出した。今後さらに解析を進めて、NETs形成機構の解明、血小板血栓を惹起するNETs成分の同定をめざす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調な点は、NETs形成に重要であると見出した標的分子について、ノックアウト(KO)型好中球モデルを利用した解析をおこない、NETs形成過程への関与について、新規な結果を得られたことである。一方で、NETsに伴う血小板活性化プロセスの解析については、定量法の確立も含めて次年度の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
令和1年度までの実績として、NETs形成過程に特異的な翻訳後修飾を含むタンパク質として、ジスルフィドイソメラーゼ (PDI)ファミリータンパク質、P4HB、プロテインS100ファミリータンパク質のプロテインS100A8およびS100A9、チロシンキナーゼ、Sykを見いだし、そのノックアウト型好中球モデル(KO型HL60細胞)を作成して解析に取り組んだ。その結果、1)P4HB-KO細胞において核分葉が抑制されること、2)Syk-KO細胞では、活性酸素の産生が抑制されること、NETs形成に伴い、3)親株であるHL60から、炎症性サイトカインおよびプロテインS100A8とS100A9が放出されることを見出した。今後は、KO型好中球モデルで認められた分化遅延や活性酸素産生抑制がNETs形成に及ぼす効果を、バイオイメージングや生化学的な手法により解析する。さらに、NETs形成で放出される炎症性サイトカインやプロテインS100ファミリータンパク質が、血小板の活性化や凝集に与える影響ついても検討する。具体的には、好中球様に分化したHL60細胞および標的分子(P4HB、プロテインS100A8、S100A9、Syk)のKO型HL60細胞について以下の検討をおこなう。1)NETs形成レベルの指標として、NETs形成刺激後の核崩壊の速度や形状、ヒストンにおけるアルギニン残基のシトルリン化の程度を解析する。2)NETs成分による血小板活性化レベルを検討するため、各細胞の放出成分による刺激をおこない、血小板凝集を誘導する時間と強度を解析する。これらの結果を統合して、NETs形成過程およびNETs成分による血小板血栓形成の分子メカニズムの解明をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費、とりわけ抗体と遺伝子編集に必要な試薬類を予定より少量ですませることができ、予算に余裕が生じた。血小板の分離と血小板凝集の解析に新たな試薬を予定しており、有効に活用する。
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