研究実績の概要 |
Neutrophil extracellular traps(NETs)は、好中球のクロマチンが網状構造に変化して病原微生物を捉える生体防御機構である。近年、NETs成分が血小板を刺激して血栓症を誘発することが新たな病態として注目されている。そこで本研究は、NETs形成の分子機構を解明して、血小板を活性化するNETs成分を同定し、血栓症の早期診断法の開発に貢献することを目的とした。研究成果として、1)質量分析法等を活用して、NETs形成過程で特異的に変化する翻訳後修飾を解析し、2)その変化を含む5種類のタンパク質のノックアウト(KO)型好中球モデルを作成した。具体的には、好中球様に分化できるヒト白血病細胞株,HL60に、遺伝子編集技術(CRISPR/Cas9)を応用し、ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)ファミリータンパク質,P4HB、プロテインS100ファミリータンパク質のプロテインS100A8,S100A9、チロシンキナーゼ,Syk、低分子量Gタンパク質,Rab27Aについて、KO型HL60細胞を作成した。次に、3)KO型好中球モデルを用いてNETs形成への影響を解析した。P4HB-KOによる核分葉の抑制、Syk-KOにより活性酸素種産生の抑制、さらに、NETs形成刺激でHL60からプロテインS100A8、S100A9がTNF-αと共に放出されることを見いだした。S100A8とS100A9を、NETs成分由来の血小板活性化分子の候補として、KO細胞を活用して検討している。Sykについては、好中球同様に食細胞であるマクロファージの機能への影響について解析し、Sykが細胞骨格タンパク質、アクチンの制御を介してリソソームと食胞の融合を促進することを見いだした。細胞骨格の制御は、NETs形成に必須であり、Sykによる細胞骨格を介したNETs形成制御機構についての検討を進めている。
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