研究実績の概要 |
本課題は、我々がリゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)にKeap1-Nrf2経路活性化能を偶然に発見したことから発想し、LPE分子がKeap1-Nrf2経路の活性化を介して細胞を酸化ストレスから保護する内因性抗酸化シグナル分子であることを明らかにすることを目指している。2018年度は、本課題に必要なLPE分子種、LPE-decanoyl, -hexadecanoyl, -alpha-linolenoyl, -gamma-linoleoyl, -linoleoyl, -pinolenyl, -oleoyl, -arachidonyl, -eicosapentaenoyl (EPA), -docosahexaenoyl (DHA)の化学合成に成功した(Yamamoto Y, et al. Chemistry and Physics of Lipids, 216:9-16, 2018; 山本祐輔, 「フッ素置換構造を鍵としたリゾリン脂質異性体の合成と物性に関する研究」, 第58回日本臨床化学会YIA賞)。 2019年度は、1)LPE分子のラジカル吸収能試験と、2)LC/MSによるLPE定量系の開発、3)酸化ストレス負荷時の細胞内LPE濃度の変動の検討を計画していた。1)のラジカル吸収能試験に関しては、LPE-EPAとLPE-DHAはORAC試験で低値であった。即ち、LPE分子のラジカル吸収能は低いことが明らかとなった。このことは、LPE分子が主にNrf2依存性に抗酸化能を発揮することを示している。2)LPE定量法に関しては、2018年度に合成した種々のLPE分子種と内部標準物質を用いるLC-MS/MS法(内部標準法)を確立し、現在は論文投稿準備中である。3)酸化ストレス負荷時の細胞内LPE分子の変動に関しては、実験2)に時間を要して進捗がやや遅れており、2020年度内に細胞実験を実施する予定である。
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