研究課題
本研究課題では、酸化ストレスからリゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)の肝細胞保護及び障害メカニズム、脂肪滴の影響を明らかにすることを目指している。令和2年度は、LPEが非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)との関連を探ることを目標にした。下記に令和2年度の研究成果と今後の方針について記す。NAFLDは肝臓にトリグリセリドが蓄積する進行性の肝疾患であり、単純性脂肪肝や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などが含まれる。NAFLD患者血清中総LPEが健常者と比較して低値であると報告されてきたが、その分子種毎の濃度変化の詳細は明らかにされていない。そこで、脂肪酸がそれぞれ異なる役割を果たすことと同様に、異なるアシル基を持つLPEは役割も異なると考え、NAFLDにおける分子種毎の血清中LPEの濃度変化に焦点を当てた。対象としたのは、健常者(n = 8)並びに単純性脂肪肝(SS、n = 9)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH、n = 27)を含むNAFLD患者の血清中LPEである。LC/MS による定量した7分子種のLPEの合計濃度は健常者、SS、NASHの各群においてそれぞれ18.0 ± 3.8 nmol/mL、4.9 ± 1.9 nmol/mL、および5.5 ± 2.5 nmol/mLであった。分子種毎のLPE定量結果ではLPE 18:0を除き、NAFLD群で健常者群と比較して有意に減少した。SS及びNASH群間に有意差は観察されなかった。本研究で開発したLPEのLC/MS定量法 (Yamamoto, Anal Bioanal Chem 2021)を臨床検体に応用した結果、ごく少量の血清量(10 uL)で全7分子種の同時定量が可能であることが分かった。令和3年度では酸化ストレス負荷時の細胞内LPE分子の変動等を検討していく。
2: おおむね順調に進展している
リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)のLC/MS定量分析法の開発に成功した。また、共同研究先より非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者および健常者の血清を入手できたので令和2年度の研究が順調に進展している。
酸化ストレス負荷時の肝細胞において、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)の変動や他の脂質成分の変動を観察する。LPEの細胞への取りこみが脂質代謝や脂肪滴形成および肝細胞に及ぼす影響を検討する。
1.リゾリン脂質や他の脂質の質量分析のために有機溶媒と質量分析計の校正スタンダードおよびカラムなどを購入する必要がある。2.肝細胞培養実験のために、細胞、培地、血清、プラスチック製品が必要である。
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