研究課題/領域番号 |
18K07434
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
千葉 仁志 北海道大学, 保健科学研究院, 名誉教授 (70197622)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リゾリン脂質 / LPE |
研究実績の概要 |
本研究課題では、酸化ストレスからリゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)の肝細胞保護及び障害メカニズム、脂肪滴の影響を明らかにすることを目指している。LPEの生理活性や機能については未だに不明な点が多い。令和3年度は、ヒト培養肝細胞を用いてLPEの脂質生成および脂肪分解に対する影響を調査した。脂質代謝と異化作用に関連する遺伝子の発現は、リアルタイムPCRを使用して分析された。細胞内脂質プロファイルは、LC/MS分析法を使用して解析された。下記に令和3年度の研究成果について記す。 ヒト肝由来株化細胞(C3A)を用いて、細胞毒性試験を行い、設定したLPE 18:2の刺激濃度(0.2-200uM)の間では、細胞への毒性がないことが確認された。また、LPE添加による脂肪滴形成量を確認したところ、LPE 18:2が肝細胞に添加濃度依存的に脂肪滴を形成させることが明らかとなり、細胞内ではトリアシルグリセロール(TAG)、コレステリルエステルやホスファチジルエタノールアミンの分子種が増加したことが確認された。さらに、脂肪滴形成に関連する遺伝子発現量の変化を観察したところ、コントロール群に対してLPE 18:2添加群におけるATGLの発現量は有意に低下した。ATGLは脂肪滴の主な構成成分であるトリアシルグリセロール(TAG)を加水分解し、ジアシルグリセロール(DAG)へ変換する酵素である。LPE 18:2を添加した細胞では、TAGの分解が抑制されたことにより、多くのTAG分子種の増加、つまり脂肪滴の蓄積につながったと考えられた。また、LysoPE 18:2による刺激群では、コントロール群に対して不飽和脂肪酸生合成関連遺伝子SREBP1及びSCD1の発現が有意に低下した。 これらの結果から、添加したLPE 18:2が肝細胞内に取り込まれ、脂肪分解と脂肪酸生合成を抑制することによって脂肪滴形成に関与していることが示唆された。LPEは脂肪肝疾患の誘発に病理学的役割を果たす可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染防止のため、実験室を利用できる時間が制限された。そのため、十分な実験ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1)LPEのヒト血中の存在様式を検討する。 2)LPE分子種ごとのアルブミンとの親和性や結合部位を明らかにするため、分子シミュレーションソフトAutoDockを用いて結合予測モデルを作成する。 3)上記1)と2)を実行するために純度の高い様々なLPE分子種を化学合成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.リゾリン脂質や他の脂質の質量分析のために有機溶媒と質量分析計の校正スタンダードおよびカラムなどを購入する必要がある。 2.肝細胞培養実験のために、細胞、培地、血清、プラスチック製品が必要である。 3. 研究成果を学会で発表して研究者と意見交換をするため、国内外学会旅費が必要である。現時点で予定している学会は、日本臨床化学会、日本脂質生化学会などであるが、研究の進捗に応じて変更する可能性がある。
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