研究課題/領域番号 |
18K07443
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安藤 昌彦 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院教授 (10322736)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高齢者 / がん / QOL |
研究実績の概要 |
リスク/ベネフィット・バランスが一般に小さい高齢者がん治療では、若年者と比べて生活の質(Quality of Life, QOL)を重視する傾向にある。今回我々は、QOL研究事務局としてQOLデータの収集ならびに解析を担当する3つの多施設共同比較試験から得られた、70歳以上の高齢非小細胞肺癌患者373例のデータを用い、肺がんに特異的なQOL指標であるFACT-Lについて、重要な治療アウトカムである全生存期間の予測因子となりうるか否かを明らかにした。 まず、治療開始前PS、年齢、性別、臨床病期、組織型、MMSEを含む高齢者機能評価データによる調整を行った多変量解析において治療開始前のQOLがより強い予後因子となりうるかの検討を行ったところ、治療開始前のQOLは独立した有意な予後因子であることが示された。これは、高齢がん患者の化学療法アウトカム予測において、高齢者機能評価に関する情報とQOL評価の情報は互いに独立した形で有用であることを示しており、高齢者機能評価に関する情報がきちんと収集されていればQOL評価の情報は必要ないとの考えが正しくないことを強く示唆する結果であり、2018年度に論文発表がなされた。 2019~2020年度は、がん化学療法による有害事象のうち重要なものの一つである神経毒性について、神経毒性の指標であるFACT/GOG-Ntxスコアにおいて、いわゆる「臨床的に意味のあるQOL変化」が何点以上であるかを明らかにするためのデータ解析を進め、末梢神経障害に関するCTCAEグレードが1変化することに伴い、FACT/GOG-Ntxスコアが概ね4点変化することを見い出した。この結果について2020年度内に論文受理された。 さらに、同一の解析対象集団において、治療開始前の高齢者機能評価のみ(QOL評価を含まない)について予後因子となるか否かに関する論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 2020年度までに、本課題における二つの研究目的について論文発表を行うことができた。 ・日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group、JCOG)ならびに西日本がん研究機構(West Japan Oncology Group、WJOG)で実施された、高齢者を対象とする3つの大規模臨床比較試験373例のデータを用いて、北米を中心に世界的に利用されているFACT-Lスコアを用いたQOL指標の予後予測因子としての意義について、年齢やPS、MMSEを含む高齢者機能評価と比較し、治療開始前のQOLは、ハザード比0.68(95%信頼区間0.52-0.89)で、独立した有意な予後因子であるとする論文を発表した。 ・「抗がん剤における神経毒性のQOL指標であるFACT/GOG-Ntxについて、医療者が判断するがん治療有害事象評価スケールCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)のグレードとの比較に基づき、いわゆる「臨床的に意味のあるQOL変化」がFACT/GOG-Ntxでどれくらいのスコア差に相当するかを明らかにすること」についても、WJOGで実施された大規模臨床比較試験である「切除不能・再発結腸/直腸がん初回化学療法例に対する5-FU/I-LV + L-OHP + BEV併用療法 vs 5-FU/I-LV + CPT-11 + BEV併用療法のランダム化比較第III相試験(WJOG4407G)」のデータを用い、当初の研究期間内である2020年度に論文発表することができた。 治療開始前の高齢者機能評価のみ(QOL評価を含まない)について予後因子となるか否かに関する論文発表については、当初予定に追加して行っている。
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今後の研究の推進方策 |
治療開始前の高齢者機能評価のみ(QOL評価を含まない)について予後因子となるか否かに関する論文が受理され発表されれば、本課題の一連の研究が終了する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、データ統合解析作業が当初計画よりも円滑に行うことができたため、人件費を予定よりも少なく抑えることができた。 2019~2021年度においては、西日本がん研究機構(West Japan Oncology Group、WJOG)データセンターと当方の間で、臨床試験データとQOLデータを統合する作 業が当初計画よりも円滑に行うことができたため、予定より費用を少なく抑えることができた。 解析結果の論文発表をもって、本課題の研究費執行が完了する。
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