研究課題/領域番号 |
18K07445
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
伊澤 正一郎 鳥取大学, 医学部附属病院, 助教 (30572599)
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研究分担者 |
日野 智也 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (40373360)
福原 隆宏 鳥取大学, 医学部, 准教授 (80403418)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 甲状腺癌 / 自己抗体 / X線構造解析 / バイオマーカー / エピトープ / ペプチド / 診断 / 予後 |
研究実績の概要 |
1. 予後不良甲状腺乳頭癌における癌特異的自己抗体の治療前後モニタリング 前年度までに必要な症例登録と経過観察を完了し、必要な血清と臨床情報収集を終了している。今年度は登録した症例の一部において特徴的な臨床経過を示したものについて文献レビューを加えて論文発表するとともに、甲状腺腫瘍の既存診断法および治療適応、経過観察に関する総説論文の執筆を行った。 2. 蛋白立体構造の検証による自己抗体検出に最適なペプチドの決定 研究中の合成ペプチドを用いた診断に関する国内特許(特許7011815)が承認された。これまでのところ自己抗体検出に最適なペプチドの立体構造を解析するための全長WDR1のリコンビナント蛋白精製は可能であるが、ELISAによる自己抗体検出試薬作成に寄与する大量合成方法の確立には至っていない。当初計画していたX線立体構造解析はCOVID-19流行に伴い学外施設の利用が大きく制限され実施困難であるため、抗原蛋白質のsubunit単位での精製を試み、キャリア蛋白質を付加することでの代替を検討している。具体的にはAIを用いた立体構造予測プログラムAlfafold (Nature 596, 583-9, 2021) を参照し、抗体に認識され易い部分構造の結晶化とその解析の反復によりエピトープを決定する手法へ方針を変更した。 3. 自己抗体産生に関わる腫瘍免疫活性化機序の解明 腫瘍免疫活性化機序に関連し、既報告で得た甲状腺癌組織と正常組織における抗原蛋白質産生量の差異におけるDNAレベルの差異を検証するため、マイクロサテライト解析に関する予備試験を行った。多数例での解析を前に本学の倫理審査委員会の承認を得て、複数の異なる腫瘍を遺伝的に発症するフォン・ヒッペルリンドウ病患者にて、腫瘍組織と正常組織における疾患関連遺伝子のマーカーを比較し、研究手法活用の可能性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
1. 予後不良甲状腺乳頭癌における癌特異的自己抗体の治療前後モニタリング 治療前後のモニタリングに必要な臨床データの収集およびデータベースの作成は予定通りに完了している。しかし2. に関連して治療前後モニタリングに用いる自己抗体の測定方法最適化が完了していない。また多数検体を解析するに堪えうるELISAキットを実用化することにより測定の効率化を進める必要があるが、実現できていない。そのため進捗が遅れている。 2. 蛋白立体構造の検証による自己抗体検出に最適なペプチドの決定 2020年3月以降、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに関連し、抗原となる蛋白質の結晶化及び立体構造解析を行うための学外共同利用施設利用が制限されており、関連した研究活動を停止せざるを得ない状況である。従ってAIを用いた立体構造予測プログラムによりエピトープの立体構造を予測し、抗原蛋白質のエピトープを決定する手法への変更が必要となった。また抗原蛋白質の全長を大量に得ることが難しいことから、subunit単位で発現させることにより、大量精製可能な血中自己抗体測定に耐えうる検査システムを開発する方向へ計画を変更が必要となった。当初の目標である自己抗体の検出に最適なペプチドの決定に至っておらず、研究の進捗は遅れている。 3. 自己抗体産生に関わる腫瘍免疫活性化機序の解明 前年度にIFN-γの活性化をELISA法にて解析する方法と末梢血中単核球 (PBMC) から回収したtotal RNAを用いて腫瘍免疫活性化機序を証明する知見を得た。しかし腫瘍組織と正常組織における抗原蛋白質の発現量が生む自己抗体産生量の差異を依然として証明できておらず、十分な研究成果も発表できていないため進捗が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
1. 予後不良甲状腺乳頭癌における癌特異的自己抗体の治療前後モニタリング 抗原蛋白質のsubunit単位での発現によりELISA法への活用が可能な抗原蛋白質を作成し、エピトープを決定、固相化方法の改良を行うことで、安定した測定結果を得ることが可能なキットの開発を目指している。これらの改良を終えた測定法において、登録症例の抗体価測定と解析を行い、ELISAキットの開発へ発展させる方針である。 2. 蛋白立体構造の検証による自己抗体検出に最適なペプチドの決定 新型コロナウイルス感染症の状況により、自己抗体の検出に汎用可能なリコンビナント蛋白質の合成や立体構造解析を当初の方法で実施する目途がたたない状況である。従って現在進めているsubunit単位での精製とAIを用いた立体構造予測プログラムを参照することにより、抗体に認識され易い部分構造の結晶化とその解析の反復によりエピトープを決定する方針へ変更する。これにより1. に活用可能な測定方法を確立し、診断薬の開発に寄与するエピトープの決定を目指したいと考えている。 3. 自己抗体産生に関わる腫瘍免疫活性化機序の解明 自己抗体の抗原となる蛋白質は自己免疫機序の活性化をもたらすと考えられるが、現状は発現蛋白量以外に腫瘍部位と正常部位における差異を証明できていない。腫瘍と正常組織における抗原蛋白質の発現レベルの差異を予備試験において確認した手法で検証することで、自己抗体産生機序の解明を進める方策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症のパンデミックに関連し、学外で予定していた抗原蛋白質の立体構造解析に解析する実験が実施困難であった。2022年4月においても研究実施の目途がたたないため、AIを用いた立体構造予測による研究手法へ切り替えて実施する。 また抗原物質の自己免疫機序活性化に関する予備的知見をふまえ、大量合成可能な抗原蛋白質の決定を研究代表者の下で進める予定であったが、2021年度は勤務施設内において新型コロナウイルス感染者あるいは濃厚接触者が度々発生し、研究者が学内研究室の利用を制限される期間が多く発生したため、研究活動が著しく制限される状況であった。 以上の2点の理由により研究成果を取りまとめた論文発表が遅延することとなり、研究期間の延長が必要となった。新たな研究手法をもとに研究活動を実施し、特に抗原物質の決定に関する研究発表を行う予定である。
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