研究課題
2型糖尿病患者では「骨密度が高くても骨折しやすい」。我々はこの事実を統計学的に立証し、骨の量(骨密度)ではなく、「質の低下」、とりわけ骨の材質低下が本疾患の骨脆弱性の病態であることを解明した。他方、骨の構造的「質の低下」による骨強度への影響は明らかではない。本研究では、1)骨強度に対する構造劣化の影響の有無を明らかにし、2)構造劣化の病因として、骨の形状に影響を与える筋量の低下(サルコペニア)の関与を明らかにする。横断的研究および縦断的研究により、脊柱起立筋の筋量の低下や脂肪含有量の増加と椎体骨折や大腿骨近位部骨折に有意な関連があることが知られており、これらの知見は、椎体周囲の筋肉の質(筋肉/脂肪比率)と骨強度(骨密度や骨構造)に病理学的な関連があることが想定されるが、詳細な検討はない。閉経後骨粗鬆症よりも骨折リスクの増加が見いだされ、筋量低下が報告されている2型糖尿病患者において、脊柱起立筋の筋量・脂肪量と骨折、骨密度および骨微細構造を検討し、骨組織の脆弱性に対する筋組織の影響を検討した。・-脊柱起立筋内筋肉量および脂肪量の定量法の新規開発- 日常診療内において、消化管悪性疾患の検索目的に撮影された腹部CT画像を二次利用し、試料として活用した。骨構造解析用ソフトウエアを応用し、脊柱起立筋の筋および脂肪の一断面あたりの面積および量の定量手法を構築した。・-脊柱起立筋内筋肉量および脂肪量と椎体骨折の関連の検討- 55名の閉経後2型糖尿病女性の腹部CT画像を用いて、筋および脂肪の面積・量を定量し、椎体骨折の有無間で検討した。椎体骨折者では、腹腔内の脊柱起立筋である大腰筋に比して、「背筋」と呼ばれる脊柱周囲筋の脂肪化が非骨折者より有意に進んでおり、また脂肪化がない筋量が低下している傾向を見いだした。
3: やや遅れている
・研究開始当時には開発されていなかった大腿骨近位部の構造指標を得るソフトウエアが国内導入され利用が可能となったため、研究計画を変更し構造指標と脊柱起立筋の検討を行っている。1)コロナウイルス感染症蔓延により海外学会参加が不可能となり、海外において大腿骨近位部骨構造解析ソフトウエアが新規に開発された情報収集に影響した。2)コロナウイルス感染症蔓延により同ソフトウエアの国内導入が遅延し、研究室に導入・整備に遅延が発生した。3)2021年1月に導入し、大腿骨近位部骨構造と椎体骨折、柱起立筋内筋肉量および脂肪量との関連を検討し興味深いデータを得られつつある。
1)既存するデータベースをから2型糖尿病患者の男女各150~200名において、大腿骨近位部骨構造指標を得て、椎体骨折との関連を明らかにする。2)2型糖尿病において性差について結論を得る。3)椎体骨微細構造を計測し、筋量および脂肪量との関連を検討する。4)対照群として非糖尿病者において同様な検討を行う。上記の検討を行ったのち、国内学会および英語論文で国内外に研究成果を公表する。
研究開始当時には開発されていなかった大腿骨近位部の構造指標を得るソフトウエアが国内導入され利用が可能となった。本測定法による骨構造解析の既報は30件未満であり、革新的な研究結果が得られることが見込まれたため、研究計画を変更し構造指標と脊柱起立筋の検討を行っている。コロナウイルス感染症の蔓延により国内導入が2020年2月まで遅延することが見込まれたため、当該研究期間の延長申請を行い研究を継続中である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
BMC Endocr Disord
巻: 20 ページ: 60
10.1186/s12902-020-0529-2
内分泌・糖尿病・代謝内科
巻: 50増刊 ページ: 102-107
日本臨牀
巻: 78 ページ: 2146-2151