研究課題
全国から採集した冬虫夏草菌より子実体を培養し、レクチン精製のための培養条件を検討した。胞子を採取し人工培地で培養し、菌糸体の分泌した代謝液をフリーズドライ(FD)乾燥を行った。冬虫夏草菌のFDを緩衝液に溶解して得た粗抽出液を赤血球に加え、凝集活性位を認めた。それを培養細胞に加えると、シアル酸含有糖鎖を多く発現する膵臓癌など、一部の細胞の増殖抑制効果が示された。FD抽出液がもつ細胞凝集や増殖抑制活性は、糖タンパク質(フェツイン・顎下腺ムチン)の共存により阻害された。FD抽出液中からレクチン活性を精製するため、糖鎖固定化カラムに通過させ、糖を含む緩衝液で溶出して複数のタンパク質を認めた。FD抽出液中の糖鎖結合性の特長を明らかにするため、糖鎖アレイ解析を準備した。まず冬虫夏草菌FD抽出液と同様に、顎下腺ムチン特異的な抗乳がん細胞活性を持つシアル酸結合性レクチンSBLを用いて、糖鎖アレイ解析を行い、結合性のプロファイルデータを得た。
2: おおむね順調に進展している
冬虫夏草菌の培養に関してカイコに直接移植する方法と人工培地を用いた培養方法を検討した。サナギタケやハナサナギタケはカイコと人工培地を用いる方法が、ベニイロクチキムシタケやコブガタアリタケは人工培地による培養条件が効果的であり、以下の実験は、人工培地を用いた培養法で行うことにした。サナギタケ、ベニイロクチキムシタケ、コブガタアリタケの菌糸体から分泌される代謝液を集め、これをフリーズドライ(FD)した粉末を調製した。FDを可溶性した粗抽出液を調製し、これをがん細胞、正常細胞に加えると、一部のがん細胞に凝集活性と抗腫瘍効果が示された。一方、これまでに試みた正常細胞では増殖の変化は見られなかった。この凝集活性と抗腫瘍活性は、顎下腺ムチン、フェツインの共存で阻害され、これらの糖タンパク質糖鎖の構造を介して増殖制御の行われていることが示唆された。レクチンの精製を行う目的で、有機溶媒による二層分配により分画し、レクチン活性を多く含む分画を得て、上記の抗腫瘍細胞活性も認めた。シアル酸結合性レクチンの標準的な糖鎖結合特異性を知るため、その一種であるSBLを用いて、糖鎖アレイ解析を行い、結合性のプロファイルデータを得た。
マウス前肥満細胞よりインスリン抵抗性糖尿病状態にした細胞を作成し、冬虫夏草FD抽出液を加え、細胞増殖への影響を測定する。さらに細胞表面のGM3糖脂質とインスリンレセプターの発現量の変化を測定する。冬虫夏草FD抽出液の糖鎖結合プロファイル解析を行い、SBLなど既存のシアル酸結合性レクチンの糖鎖結合性と比較する。得られた糖鎖結合性プロファイル結果を参考に、冬虫夏草からレクチンを精製する効果的な方法を検討する。
次年度使用額が生じた理由当初学生と一緒に冬虫夏草の採取に行く予定で学生用の旅費、人件費を計上していたが、天候等の影響により冬虫夏草の採取時期が遅れ、研究代表者本人と会社スタッフで採取に行ったことから人件費、謝金が0となった。次年度使用額の使用計画数か所の場所へ冬虫夏草の採取にいく予定のため、旅費、人件費として計上する。また国内外の学会参加費も支出予定である。
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