研究課題
数種の天然冬虫夏草菌を採取し、人工培養するにあたり、培地成分や照射など様々な改良を加え、人工培養冬虫夏草菌を得た。数種の冬虫夏草菌抽出液に、特定のがん細胞に対する抗腫瘍効果をもつことを明らかにした。Ophiocordyceps pulvinata(コブガタアリタケ)のヒト乳癌細胞に対する抗腫瘍活性は、顎下腺ムチンで阻害された。Cordyceps roseostromata(ベニイロクチキムシタケ)の抽出液は、ヒト膵臓癌細胞の増殖を抑え、ウサギ赤血球の凝集活性を持つことを明らかにした。この血球凝集活性は、フェツインと顎下腺ムチンで阻害され、糖鎖依存的な結合性を持つことが示唆された。フェツイン、顎下腺ムチンに反応するレクチンとして、両生類卵レクチンSBLの活性を比較した。SBLは、ヒト乳癌細胞に対して抗腫瘍活性を示し、顎下腺ムチンで阻害したことから、O. pulvinata(コブガタアリタケ)の抗腫瘍活性はSBLと類似することが明らかとなった。一方、Cordyceps pentatomi Koval(クビオレカメムシタケ)抽出液は、B16メラノーマ細胞に対して、抗腫瘍効果を示さない低濃度で細胞を処理すると、チロシナーゼの活性を調節し、メラニン生成の抑制を示すことが新たに明らかになった。さらに、メラニン生成抑制は顎下腺ムチンとフェツインの共存で阻害され、糖鎖依存的に制御されることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
冬虫夏草菌の子実体を人工培養し抽出液を得た。それは特定のがん細胞の抗腫瘍効果を示した。子実体から、有機溶媒を用いて段階的に抽出すると、強い抗腫瘍活性を認める画分が存在していたことから、既知の抗腫瘍成分コルジセピンとは異なる活性物質の存在が示唆された。一方、メラニン生成を抑制する物質の存在も認められた。これをB16-F1細胞に与えると、細胞毒性はないものの、α-MSH により誘導されるメラニン産生を濃度依存的に抑制した。メラニンの生成は内在性のチロシナーゼの作用が明らかであるが、冬虫夏草の抽出液は、細胞内のチロシナーゼ活性を抑制し、メラニン産生を抑制していたことが判明した。冬虫夏草のレクチン活性を明らかにするため、それと類似の糖鎖結合活性を持つ両生類卵レクチンSBLの特徴と比較することを考え、リコンビナントSBLレクチンと抗体の作製を開始した。
冬虫夏草菌の抗腫瘍効果と比較する両生類卵レクチンSBLをリコンビナント技術により調整する。それをもとに抗SBL 抗体を作る。SBLに新たに見つかったヘパリンとの強い相互作用について、冬虫夏草菌でも同様の活性が存在するか、ヘパリン固定カラムを用いた解析を進める。冬虫夏草菌レクチンによるガングリオシド-インスリンレセプター間結合の阻害の検証:インスリン抵抗性糖尿病細胞で高度に発現したGM3への結合とインスリンレセプターへの非結合をマイクロアレイに固定したGM3、インスリンレセプターに冬虫夏草レクチン画分を加え、相互作用を解析する。マウス前肥満細胞に腫瘍壊死因子を加え、インスリン抵抗性糖尿病状態にした細胞を準備し、冬虫夏草レクチン画分を与え、細胞表面上の結合を形態学的に観察する。これによりGM3、インスリンレセプター、冬虫夏草レクチンの結合関係を明らかにする。冬虫夏草レクチン画分がGM3とインスリンレセプターとの結合を阻害する作用の詳細を細胞生物学的に解析し、細胞内で活性化される情報伝達分子の特定を試みる。微生物資を用いた生活習慣病への利用可能性を研究する。冬虫夏草菌のタンパク質画分に顎下腺ムチンとフェツインに反応しB型赤血球を凝集する成分を見つけた。これはヒト乳がん細胞の細胞死を起こした。SBLもヒト乳癌細胞に対する抗腫瘍活性を持ち、顎下腺ムチンにより活性は阻害され、今後の比較研究に役立つことが明らかになった。SBLの糖鎖結合性解析ではヘパリンとの結合が認められたことから、ヘパリン、シアル酸含有糖タンパク質をゲルに固定したアフィニティカラムを準備し、冬虫夏草菌のタンパク質画分にSBL同様のレクチンが存在するかを解析する。
抗体作製や動物実験などに着手するため、今年度の使用分をできるだけ抑え、研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (4件)
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