冬虫夏草の抗肥満効果を明らかにする目的から、線維芽細胞から脂肪細胞へ分化する培養細胞に、培養した冬虫夏草の抽出液を投与し効果を評価した。線維芽細胞を脂肪細胞へ分化させるデキサメタゾン、イソブチルメチルキサンチン、インスリンの混合液と共に、冬虫夏草クビオレカメムシタケから調製した抽出液の有無の条件のもと、線維芽細胞を培養した。冬虫夏草抽出液存在下で細胞培養を行うと、抽出液の濃度に比例して脂肪細胞の割合が減少することを、脂肪滴の量から確認した。線維芽細胞にテキサメタゾンとイソブチルメチルキサンチンのみを添加し脂肪細胞を誘導する際、冬虫夏草抽出液を共存させると成熟脂肪細胞への分化が抑制された。これは脂肪細胞を分化させるチアゾリノンの標的転写因子PPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor gamma)に冬虫夏草抽出液中の成分が作用していることを示唆した。冬虫夏草サナギタケのもつ核酸系抗生物質コルジセピンは、脂肪細胞への分化においてトリアシルグリセロール合成を阻害するが、クビオレカメムシタケにはコルジセピンは存在せず、コルジセピン以外に脂肪細胞の分化を抑制する成分の存在が示唆された。デキサメタゾン、イソブチルメチルキサンチン、インスリンによる線維芽細胞から脂肪細胞への分化において、TNF(腫瘍壊死因子)-αは分化を阻害する。これら4者にベニイロクチキムシタケ抽出液を共存させ線維芽細胞を培養すると、TNF-αによる分化誘導阻害は解除され、脂肪細胞への分化促進を認めた。ベニイロクチキムシタケ抽出液は高濃度でも細胞毒性は無く、安全に細胞の抗肥満効果の期待できる有効成分を有すると、考えられた。今後、冬虫夏草における有効成分の絞り込みと、この成分が標的とする細胞側の分子の絞り込みを行ってゆく。
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