研究課題/領域番号 |
18K07460
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
柳井 修一 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (60469070)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / 記憶 / 学習 / シロスタゾール / ドネペジル / ドラッグ・リポジショニング |
研究実績の概要 |
本研究課題では、「シロスタゾールがアルツハイマー型認知症の認知機能低下を改善する」という仮説を検証し、シロスタゾールをアルツハイマー型認知症治療薬として展開するための基礎研究を行う。また、シロスタゾールとドネペジルの2剤併用の有効性を明らかにする。アルツハイマー型認知症の治療を指向した基礎研究を実施するにあたり、ヒトのアルツハイマー病で認められる認知機能低下と脳内病変を再現する遺伝子改変マウスは必要不可欠である。本年度は、ヒトのアルツハイマー型認知症と類似した病態を呈する2系統のアルツハイマー病モデルマウスについて、行動学的、組織学的手法を組み合わせた解析を行った。行動評価には、ホームケージ内活動量やオープンフィールドなどの一般行動解析、またモリス水迷路課題や恐怖条件づけ課題などの学習課題を組み合わせた行動テストバッテリーを構築した。 アミロイドβ前駆タンパク質(APP)を過剰発現することで作出されている3xTgマウスでは、3及び12ヶ月齢における各種行動解析と組織学的解析が終了した。いずれの月齢でも、学習成績は統制群と同程度であり、脳内でのアミロイドβ沈着は認められなかった。 年齢依存的なアミロイドβの蓄積が認められるAPP-KI NLマウス(以下NLマウス)でも、3及び12における各種行動解析と組織学的解析が終了した。3ヶ月齢NLマウスと統制群の学習成績は同程度であり、脳内アミロイドβの沈着も認められなかった。12ヶ月齢NLの学習成績は同月齢の統制群と比較して有意に劣ることが示され、また海馬や新皮質にアミロイドβの沈着が認められた。 本年度の成果は評価を行う月齢をマウスの系統ごとに選定することの重要性を示唆しており、アルツハイマー病モデルマウスの一般行動及び脳内病変に関する貴重な基礎データである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で用いる2系統のアルツハイマー病モデルマウス(3xTg及びNLマウス)について、遺伝子型の判定プロトコルを確立した。また、これら2系統のマウスについて、薬物非投与下での行動学的・組織学的基礎データを取得した。 3xTgマウスでは、12ヶ月齢までの記憶・学習成績は統制群と同程度であり、脳内でのアミロイドβ沈着も認められなかった。アルツハイマー様の認知機能低下と脳内病変が認められる月齢を明らかにするため、次年度は18ヶ月齢で行動学的・組織学的データの取得を行う。 NLマウスでは、統制系統と比較して12ヶ月齢で記憶・学習障害が認められること、また海馬と新皮質を中心としてアミロイドβの沈着が認められることが明らかになった。次年度以降、本成果を基礎データとしてシロスタゾール単独投与下での行動評価を行う。 2系統のアルツハイマー病モデルマウスとも遺伝子型の判定プロトコルを確立しており、 マウスの交配、飼育を進めている。また、実験に必要な匹数を一度に得ることができるよう、体外受精による胚凍結を平行して進めている。 以上の進捗状況から、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
12ヶ月齢3xTgマウスの記憶・学習成績は統制群と同程度であり、脳内アミロイドβ沈着も認められなかった。この原因として、マウスの老化が不十分であることが考えられた。そのため、薬物非投与下における老齢3xTgマウスの基礎データを収集し、アルツハイマー様の認知機能低下と脳内病変が認められる月齢を明らかにする。行動学的・組織学的データの取得を行う月齢は、18ヶ月齢を目安とする。 NLマウスでは、12ヶ月齢でアルツハイマー様の認知機能低下と脳内病変が認められることが明らかになった。NLマウスにおける薬物非投与下でのデータ取得は概ね終了したため、今後は薬物投与下でのデータ取得を目指す。まず、シロスタゾールを単独で投与することにより、アルツハイマー型認知症の治療におけるシロスタゾール単独投与の有効性を明らかにする。シロスタゾールの投与方法は、申請者がこれまでに確立した混餌(慢性投与)とする。シロスタゾールの単独投与がアミロイドβの代謝に与える影響を解析するため、行動評価の終了後には免疫組織化学染色によりアミロイドβを定量化する。さらに、PETアミロイドイメージングについて、予備的な検討を進める。 本研究で用いる2系統のマウスは、自然交配により得られる産仔数が野生型と比べて少ないと判明した。そのため、今後使用する実験群の作出は体外受精により行うことにする。なお、系統維持及び実験群の親の作出は引き続き自然交配で行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の研究費は概ね計画通りに執行したものの、研究用試薬等、消耗品の購入がやや少なく、若干の残額が発生した。2018年度研究費の残額は、2019年度の研究費とあわせて消耗品費の購入等に充当する。
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