研究実績の概要 |
蛋白質のCys-thiol基のレドックス変化は当該蛋白質の生理機能に影響を与えるとともに、様々な疾患の発症に関与する翻訳後修飾である。我々は、apoEのCys-thiol基のレドックス変化にも同様の意義があり、apoEが密接に関わるアルツハイマー病などの病態メカニズムを解明していくうえで重要な鍵になると考えている。Cys-thiol基の可逆的な酸化修飾には、当該蛋白質を不可逆的な酸化から保護することでその機能を維持する働きがあることが知られている。我々は、apoE3が可逆的な酸化を受けた状態に相当するapoE3-AII complex にも、apoE3分子を不可逆的な酸化から保護する働きがあることを明らかにした(Biosci. Rep., 2019, doi: 1042/BSR20190184)。この結果を踏まえ、apoAIIとのジスルフィド結合、すなわちCys-thiol基の可逆的酸化は、脂質代謝におけるapoEの機能にも影響していると考え、apoAIIと反応させたリコンビナントapoE2, E3, E4を用いてDMPCクリアランス能とDMPCリポゾームとのリポ蛋白形成能の比較検討を行った。Cys基を持たないapoE4ではapoAIIの影響が認められなかったのに対し、apoE3ではapoE3-AII complex、apoE2ではapoE2-AII complexとapoAII-E2-AII complexの形成に伴うDMPCクリアランス能の増大とリポ蛋白粒子サイズの減少が認められ、それらの影響はCys基が1個のapoE3に比べCys基を2個含むapoE2でより顕著であることを明らかにした(Biol. Chem., 2020, doi: 10.1515/hsz-2019-0414)。これらは、発症にapoEが関連する疾患の病態メカニズムを解明する上で重要な知見と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
apoEがapoAIIとジスルフィド結合を介して形成するapoE-AII complexやapoAII-E2-AII complexの存在の有無はapoEアイソフォーム間の大きな特徴であり、apoE3やapoE2とアルツハイマー病など種々の疾患の危険因子であるapoE4との決定的な違いと言える。これらのapoEジスルフィド結合複合体がapoE分子のレドックス状態の維持調節に関与しており(Biosci. Rep., 2019, doi: 1042/BSR20190184)、apoEの脂質代謝における機能にも影響している(Biol. Chem., 2020, doi: 10.1515/hsz-2019-0414)という知見が得られたことは、発症にapoEが関連するアルツハイマー病などの各種疾患における病態メカニズムを解明する上できわめて意義深い。また、上記の基礎的研究と同時並行でデータ収集を進めている血清apoEのレドックス状態の定量的評価が臨床的に有用であるという確信にも繋がった。血清apoEのレドックス状態の定量的評価は、我々が確立したMaleimide化合物を用いたバンドシフトアッセイを用いて遂行している。現状では目標のサンプル数に達していないため論文発表には至っていないものの、すでにこれまでの解析結果から、血清apoEのレドックス状態の評価は、1)Maleimideで標識されない不可逆的な酸化状態のapoE(oxidized apoE分画)と 2)ジスルフィド結合複合体とMaleimideで標識されるapoEの総量を可逆的な酸化状態にあるapoE(non-oxidized apoE分画)として2分画に分けて行うことによりその臨床的有用性が見出せることを掴むことができており、おおむね順調に研究が進展していると考える。
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