研究課題/領域番号 |
18K07470
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
大迫 洋治 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 准教授 (40335922)
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研究分担者 |
由利 和也 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 教授 (10220534)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 心理社会的ストレス / ドーパミン |
研究実績の概要 |
本研究では、一夫一婦制げっ歯類であるプレーリーハタネズミのつがいをパートナーと別離(パートナーロス)させると不安症状とともに痛み行動が増悪するという、痛みの心理ストレスモデルを用いている。これまで、このモデルの疼痛関連脳領域の痛み刺激に対する反応性をc-Fosタンパクの発現を指標に解析し、側坐核と前頭前野、扁桃体といった脳内ドーパミン回路の主要構成領域においてその反応性が低下していること、ドーパミン産生領域である腹側被蓋野のサブリージョンにおける痛み刺激に対する反応パターンが心理ストレス下で異なることを明らかにした。これらのことから、心理的ストレスによる痛みの増悪に脳内ドパミン回路による疼痛抑制機能の変調が関与する可能性が示唆されるが、ドーパミンニューロンのcFosタンパクが検出されなかったため、ドーパミンニューロン自体の痛み刺激に対する反応性はcFosを指標として評価することができなかった。そこで、痛み刺激によるドーパミンニューロンのドーパミン放出を評価する目的で、ドーパミンニューロン投射領域の側坐核と前頭前野において、LC/MSによりドーパミンの定量分析を行った。その結果、痛み刺激を与えた脳内において両脳領域ともドーパミン量が著しく少なかった。さらに、心理ストレス下における定常状態の脳内ドーパミン産生状態をチロシン水酸化酵素の免疫染色強度を測定することにより評価した。その結果、パートナーロス群の腹側被蓋野において、チロシン水酸化酵素の蛍光強度が低い傾向にあった。チロシン水酸化酵素の免疫組織強度の増減はドーパミン産生を反映していることから、パートナーロスにより脳内ドーパミンの産生が低下し、脳内ドーパミン回路による疼痛制御機能が低下する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、痛み刺激に対するドーパミンニューロンの活性を評価する目的で、ドーパミン回路構成領域においてドーパミンの定量分析をLC/MSにより行い、ドーパミンを検出・定量することができた。さらに、チロシン水酸化酵素の免疫組織化学的解析と組み合わせることによりドーパミンニューロンの活性を間接的ではあるが評価することができた。これまで、今回のモデルの痛み刺激の条件では、ドーパミンニューロンにcFosタンパクが発現せず、cFos発現を指標としたドーパミンニューロンの活性を評価できていなかったため、今回の結果は本研究のテーマに貢献できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
ドーパミンの定量分析をLC/MSで行なうことができたが、今後はドーパミン代謝産物(DOPAC、HVA、3-MT)も検出して、ターゲット領域におけるドーパミンの代謝回転を解析する。また、チロシン水酸化酵素の免疫組織化学的蛍光染色による蛍光強度を測定することでドーパミンの産生状態を評価することができた。心理ストレスモデルにおいてドーパミン産生が低下している傾向が得られているが、さらにサンプル数を増やして解析を続ける。 さらに、ドーパミンニューロンのシナプス活性についても、蛍光標識神経伝達物質を用いて解析し、心理ストレス下における脳内ドーパミン回路の機能を多角的に評価する。なお、心理ストレスモデルの側脳室へドーパミン受容体アゴニストを投与する行動薬理学的解析は今後も継続的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に用いた実験動物はすべて自家繁殖で系統維持しており、飼育匹数の変動による飼育維持管理費および餌購入費が当初の予定と若干異なったために翌年度に繰り越した。繰り越し分については、次年度の実験動物の飼育維持管理費用に引き続き充てる。
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