本研究では、一夫一婦制を営むげっ歯類であるプレーリーハタネズミのつがいを、絆形成後にパートナーと別離(パートナーロス)させると不安様症状を示すとともに炎症時の痛み行動が増悪するという、痛みの心理社会ストレスモデルを用いている。これまでに、このモデルの炎症性疼痛時において、中脳ドーパミン回路の主要構成領域である前頭前野、側坐核、扁桃体でニューロンの反応性が低下していることを明らかにしていた。しかし、Fos蛋白がほとんど検出されなかったことから、腹側被蓋野ドーパミンニューロンの反応性の評価ができていなかった。そこで、前年度に引き続いて、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いて、前頭前野、側坐核、扁桃体におけるドーパミンおよびドーパミン代謝産物(DOPAC、HVA、3-MT)の検出・定量を試みたが、DOPACの検量線の直線性が低くドーパミン代謝産物を安定して正確に検出できず、ドーパミンの代謝回転率を算出することができなかった。そこで、ドーパミンニューロン興奮薬であるニコチンを急性投与し、その際に発現するFos蛋白を免疫組織化学的手法により検出・解析することで、腹側被蓋野ドーパミンニューロンの機能評価を行った。その結果、パートナー維持群・ロス群ともに生理食塩水投与下ではドーパミンニューロン(チロシン水酸化酵素陽性ニューロン)のFos発現はみられず、ニコチン投与によりその発現が増加した。その増加率を比較すると、維持群がロス群より多い傾向にあったが、統計学的有意差を検出するに至らなかった。さらに、脚間核において、FosとGABAニューロンマーカーであるGAD67の共発現を解析すると、維持群がロス郡より共発現ニューロン数が多かった。
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