Tリンパ球依存性の全身及び小腸粘膜炎症モデルに対する晋耆-白朮配合補中益気湯と晋耆-蒼朮補中益気湯の作用を比較したところ、全身炎症には蒼朮配合剤のみが、小腸粘膜炎症には白朮配合剤のみが有効であることを明らかにした。晋耆-白朮配合剤の晋耆を黄耆に変更してもその作用に変化を認めなかった。本モデルの小腸上皮障害は抗CD3抗体投与で小腸組織へのCD3リンパ球のリクルートが増加し、本リンパ球による小腸上皮細胞に対する細胞傷害で絨毛上皮細胞の脱落により粘膜炎症に発展すると考えられる。そこで、白朮配合剤の小腸粘膜炎症改善はアポトーシス誘導カスケードでのシグナル伝達経路の介入で起こっていると仮定し、デス受容体としてのFas、TNF、TNFスーパーファミリーの受容体、これらの活性化調節に関与する抑制性アダプター分子の観点から作用機序と有効成分を解析した。その結果、白朮配合剤の投与により、Fas受容体などの下流にあるcaspase 8や9 遺伝子、さらに下流に位置するアポトーシス実行型のcaspase 3遺伝子のmRNA発現の変化は示さなかった。一方、抑制性アダプター分子のCYLD、FLIP、BRUCEの遺伝子では白朮配合剤の投与でmRNA発現が増加傾向または有意に増加したことから、白朮配合剤の小腸粘膜炎症改善作用は小腸上皮細胞に直接作用することが明らかとなった。また、脂溶性低分子画分の投与で小腸粘膜炎症改善作用を示したものの、脂溶性低分子の主要成分のうちnobiletin、cimigenoside、atractylenolideⅢ、formononetinの投与ではいずれも改善を認めなかった。オリゴ糖画分についても小腸粘膜炎症改善作用を示さなかった。以上のことから、白朮配合剤の小腸炎症改善作用の機序の一部にデス受容体の下流に位置するcaspase3経路の抑制が関与している可能性が想定された。
|