研究課題
本研究の目的は、 喘息病態形成に重要な神経ペプチドと気道上皮細胞のバリア機能に着目し、ストレスが、どのように気道局所に作用し、喘息の病態形成に関与しているのかを明らかにし、診断、治療につながる臨床的意義を見出すことである。平成30年度は、下記にあげた研究項目1.2.3.について研究を実施し、以下の研究計画の進展を得た。研究項目1:(神経ペプチドによる気道上皮バリア機能への影響)ヒト気道上皮細胞株に神経ペプチド(PACAP:ストレス耐性遺伝子PAC1のリガンド)を刺激後、上皮バリア機能を測定したところ、バリア機能への影響は認められなかった。しかし、PAC1遺伝子のノックダウンは、アデノシン三リン酸(ATP)による気道上皮バリア機能形成促進を抑制した。以上よりPACAPの上皮バリア機能への影響は確認できていないが、PAC1がバリア機能形成促進に関与する可能性が示唆された。研究項目2:(心理社会的ストレス、喘息のマウスモデルと神経ペプチド)①ストレス負荷(母子分離ストレス、拘束ストレス)マウスモデルを作製し、血清、肺胞洗浄液、肺組織などの検体を回収した。②予備実験としておこなったダニアレルゲン負荷喘息モデルマウスでは、母子分離ストレスで、アレルギー性気道炎症(肺胞洗浄液中の好酸球浸潤)が増悪した。③蛍光標識デキストランを経気道的に投与し、血清中にリークするデキストラン量を測定することで、生体における上皮バリア機能を評価する。マウスを用いてこのバリア機能の測定系を構築することができた。研究項目3:(神経ペプチドの臨床的意義)臨床研究を申請する上で基盤となる喘息患者の臨床情報を研究分担者とともに収集し、検討した。
3: やや遅れている
研究課題1((神経ペプチドによる気道上皮バリア機能への影響)については、PACAPの受容体であるPAC1は上皮バリア機能形成促進に関与する結果が得られたが、PACAPによる上皮バリア機能への影響が、現行の条件では有意な変化を認めなかった。神経ペプチドによる直接的な気道上皮バリアへの影響を確認できておらず、やや遅れている状況である。研究課題2(心理社会的ストレス、喘息のマウスモデルと神経ペプチド)については、細胞実験と並行してすすめることができたため、ダニアレルゲンモデルによる予備実験でも有意な結果がでており、おおむね順調に進められている。研究課題3(神経ペプチドの臨床的意義)については、現在、心身相関を背景に持つ喘息患者について臨床情報を収集、集約し、神経ペプチドの臨床的意義を検証できうる臨床研究申請のための準備をすすめている段階である。やや遅れている状況である。
研究課題1(神経ペプチドによる気道上皮バリア機能への影響)については、PACAPの性状や刺激条件を検討し、気道上皮バリア機能への直接的な影響を検証する予定である。また、そのほかの神経ペプチド(NMUなど)についても随時、検証する。確認が取れた時点で網羅的遺伝子発現解析を行う予定である。研究課題2(心理社会的ストレス、喘息のマウスモデルと神経ペプチド)については、ストレスによる喘息増悪モデルを卵白アルブミン(Ovalbumin:OVA)および細胞構造物質で作成する予定である。ストレスモデル(母子分離ストレス、拘束ストレス)およびストレスによる喘息増悪モデルにおける肺組織の網羅的遺伝子発現解析を行う予定である。母子分離+拘束ストレスによるモデルは、上記刺激におけるアレルギー性気道炎症の結果を踏まえて検証する予定である。また、前年度に確立したマウスにおける気道上皮バリア機能測定系を用いて、神経ペプチドによるバリア機能への影響を検証する予定である。研究課題3(神経ペプチドの臨床的意義)については、臨床研究を申請し、患者からの検体採取に着手する予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 図書 (1件)
JCI Insight
巻: 3 ページ: e121580 1-15
10.1172/jci.insight.121580