研究実績の概要 |
本研究は,代表的な脳腸相関病である過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome : IBS)を対象として,心理的ストレス状況下における携帯情報端末を用いたストレス認知や行動の修正を意図したデジタル認知行動療法の技法適用が,どの程度症状改善に寄与するのか,ということについて,実証的な研究デザインを用いて検証することを目的としている。令和5年度は,令和4年度に最新の研究動向を踏まえ,プログラムの整備とアプリケーションの運用精緻化を行った結果に基づき,介入の効果測定(ケースコントロールスタディ)を継続した。追加の実験参加者8名を対象にした介入の結果,疾患特異的認知(CF-FBD)や胃腸症状に対する不安(VSI),疾患特異的行動(IBS-BRQ),IBS症状(IBSSI-J),痛みの破局視(PCS-J),QOL(IBS-QOL-J)において,介入群で有意な改善効果が認められ,本研究で用いられた治療プログラムは一定の臨床的効果を有していることが示唆された。加えて,9ヶ月間のフォローアップ期間においても,その効果が維持されていることが推測された。本検討の結果から,対象者の症状や認知・行動特性に基づいてアプリケーションの運用をカスタマイズしながら,オンラインのみでも完結できる治療プログラムの確立可能性が見出されたことは,本研究の大きな成果であると思われる。このことは,より均質性が高く,治療者の属人性を排した認知行動療法プログラムを低コストで提供できるという臨床的応用可能性を高めうるものであり,意義を有すると考えられる。
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