研究課題/領域番号 |
18K07486
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研究機関 | 中村学園大学 |
研究代表者 |
津田 博子 中村学園大学, 流通科学研究所, 客員研究員 (30180003)
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研究分担者 |
能口 健太 中村学園大学, 栄養科学部, 助手 (90757494)
宮 真南 中村学園大学, 栄養科学部, 助手 (30828182)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プロテインS / 遺伝性血栓性素因 / 若年日本人女性 / 予防治療戦略 / 食因子 |
研究実績の概要 |
本研究では、血液凝固制御因子protein S (PS)の遺伝子多型 PS Tokushima (PS p.Lys196Glu)に起因する静脈血栓塞栓症の発症予防を目的として、新たな治療戦略の確立とその分子機序解明を目指している。PS活性は高エストロゲン状態では低下するため若年女性を対象としている。 1.若年女性の遺伝素因の検討と血中PS活性に影響をおよぼす候補食因子の探索:中村学園大学女子大学生を含む日本人健常者1,031名、静脈血栓塞栓症患者446名の遺伝子解析の結果、PS Tokushima変異のアレル頻度は健常者1.12%、静脈血栓塞栓症患者2.35%であり、変異アレル保有は深部静脈血栓症の弱いリスク要因となるが、肺血栓塞栓症のリスク要因とはならないことを明らかにした。さらに、日本、韓国、シンガポール、ハンガリー、ブラジルの健常者1,789名、静脈血栓塞栓症患1,061名の遺伝子解析により、PS Tokushima変異は日本人固有の遺伝性血栓性素因であることを明らかにした。 2. 介入研究による候補食因子の有効性の確認:PS Tokushima変異アレルを有さない野生型ホモ接合体の女子大学生12名を対象として、早朝空腹時にエネルギー量を一致させた高脂肪食または高炭水化物食をクロスオーバー法にて摂取させ、摂取前、摂取2.5時間後、5.5時間後の血中総PS抗原量、総PS活性、身体・血液指標を検討したところ、血中総PS抗原量、総PS活性はいずれの食事摂取によっても変動せず、血中アポC-Ⅱ、LDLコレステロール、トリグリセリド、グルコース、インスリンなどの脂質・糖質代謝指標と関連しなかった。 3. 候補食因子による肝細胞のPS発現調節のメカニズム解明:ヒト肝細胞株HepG2の培養液中のグルコース濃度低下によるPS遺伝子発現抑制に関与する転写因子について検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中村学園大学女子大学生に加えて、日本、韓国、シンガポール、ハンガリー、ブラジルの共同研究機関の健常者および静脈血栓塞栓症患者についてPS Tokushima変異のアレル頻度とオッズ比を解析した結果、PS Tokushima変異が日本人固有の遺伝性血栓性素因であり、変異アレル保有は深部静脈血栓症の弱いリスク要因となるが、肺血栓塞栓症のリスク要因とはならないことを明らかにし、英文論文として発表した(Tsuda H. et al., 2020)。 PS Tokushima変異アレルを保有しない女子大学生176名の血中総PS抗原量は、我々の過去の報告(Otsuka Y.et al., 2018)と同様に血中LDLコレステロール、アポC-II、HbA1cと強く正に相関するが、食事調査により推定されるエネルギー摂取量、栄養素等摂取量、食品群別摂取量とは関連しないことを明らかにした。さらに、PS Tokushima変異アレルを保有しない女子大学生12名を対象とした高脂肪食と高炭水化物食による介入研究では、血中総PS抗原量、総PS活性は摂食前後で変動せず、血中脂質糖質代謝指標のいずれとも関連しなかった。したがって、我々が中年肥満女性および若年非肥満女性の横断研究で明らかにした血中総PS抗原量とアポC-II、LDLコレステロール、トリグリセリド、HbA1cなどとの関連は、特定の食因子摂取によるものではなく、体内での脂質糖質代謝に関連することが示唆された。 これらの疫学研究の成果を参考にして、ヒト肝細胞株HepG2の培養液中のグルコースによるPS遺伝子発現制御について解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
2018~2020年度の女子大学生を対象とした横断研究および介入研究では、血中PS抗原量、総PS活性に影響を及ぼす食因子は同定されなかった。しかし、ヒト肝細胞株HepG2のPS遺伝子発現は培養液中のグルコース濃度低下で有意に低下することを確認した。今後はこれらの研究成果を論文にまとめ公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の直接経費は約177万円であったが、COVID-19防止のため研究遂行に支障をきたし、約70万円を2021年度に繰り越した。使用計画としては、データ解析のための環境整備にともなう物品費20万円、旅費10万円、論文投稿費30万円、その他約10万円を予定している。
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