研究課題
2021年度は新型コロナウイルス感染拡大により研究実施に支障をきたしたため、補助事業期間を延長し以下の項目に焦点を当てて実施した。1.介入研究による候補食因子の有効性の確認: 日本人特有の遺伝子多型 Protein S Tokushima (PS p.Lys196Glu)の野生型ホモ接合体の女子大学生12名を対象として、早朝空腹時にエネルギー量700 kcalとした高脂肪食(脂肪54g、炭水化物45g)または高炭水化物食(脂肪1g、炭水化物159g)をクロスオーバー法にて摂取させ、摂取前、摂取2.5時間後、5.5時間後の血中総PS抗原量、総PS活性、遊離PS抗原量、身体・血液指標を検討した。血中トリグリセリドは高脂肪食摂取後に有意に上昇したが、高炭水化物食では逆に低下し、血糖値はいずれの食事摂取でも変化しなかったが、インスリンは高炭水化物食摂取5.5時間後まで上昇が持続した。一方、血中総PS抗原量、総PS活性、遊離PS抗原量はいずれの食事摂取後も有意な変動を認めず、食事摂取による短期的な代謝変動では血中PS濃度は変化しないことが示唆された。2. 候補食因子による肝細胞のPS発現調節のメカニズム解明:ヒト肝細胞株HepG2の培養液中のグルコース濃度を25 mMから5.5 mMに低下させると24時間後にはPS、ApoC2遺伝子発現が有意に抑制されるが、protein C、factor Ⅶ、ApoB100の遺伝子発現は変化せず、PAI-1遺伝子発現は著しく上昇することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
これまでに我々は中年肥満女性および若年非肥満女性を対象とした横断研究で、血中総PS抗原量、遊離PS抗原量がApoC2、LDLコレステロール、トリグリセリド、HbA1cと強く正に関連することを報告してきた(Otsuka Y.et al. 2018)。本研究課題では、PS Tokushima変異アレルを保有しない女子大学生12名を対象として高脂肪食と高炭水化物食による介入研究を実施した。血中トリグリセリドやインスリンは食事摂取前後で有意に変動したが、血中総PS抗原量、総PS活性、遊離PS抗原量は変動しなかった。被験者数が少なかったことが今回の研究の限界ではあるが、食事摂取による短期的な代謝変動は血中PS濃度に有意な影響を与えないことが示唆された。一方、ヒト肝細胞株HepG2の培養液中のグルコース濃度を25 mMから5.5 mMに低下させると、24時間後にはPS、ApoC2遺伝子発現が有意に抑制されたことから、NAD+やアセチルCoAなどの代謝物シグナルによる発現制御が示唆された。
女子大学生を対象とした高脂肪食と高炭水化物食による介入研究、およびヒト肝細胞株HepG2のPS遺伝子発現に対する培養液中グルコース濃度変動の影響についての研究成果を論文にまとめ公表する予定である。
2021年度の直接経費は約73万円であったが、新型コロナウイルス感染防止のため研究遂行に支障をきたし、約34万円を2022年度に繰り越した。使用計画としては、論文投稿費30万円、その他約4万円を予定している。
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