研究課題/領域番号 |
18K07489
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
清水 敦哉 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 病院, 部長 (50345914)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高血圧管理 / 認知機能保持 / 高齢者 / 大脳白質病変 / 血圧 |
研究実績の概要 |
認知症は、わが国の高齢化に伴って近年著しく増加している。このような認知症の発症および悪化に関与する主要危険因子の一つが高血圧である。 既に多くの横断研究と縦断研究が、中年期の高血圧が老年期の認知機能低下に関与すること、そして中年期高血圧の適切な管理が老年期の認知機能低下を抑制することを明らかとしている。しかし既に老年期にある高血圧患者に於ける血圧管理状況と認知機能低下との関連性、さらにこのような患者の認知症発症や悪化を予防し得る至適血圧域については、臨床研究の結果は一致しておらず混沌とした状況にある。我々はこの要因が、高齢高血圧患者の不均質性(高血圧性臓器障害重症度の個体差が高齢者では著しく大きいこと)に在るものと推測した。 このような背景より本申請研究では、対象者を加齢性脳変性である大脳白質病変重症度に基づいて層別化し、、患者群ごとの高血圧管理状況と認知機能との関係性を追跡することによって、認知症の発症と悪化を予防し得る至適血圧域を明らかにすることとした。 具体的には、当該施設にて定期的に高血圧管理を継続している前期高齢者を対象として、登録時に頭部MRI(大脳白質病変体積・分布)・24時間血圧(ABPM)・MMSEやCDR等の認知機能検査を実施、2年後に同様の検査を再び実施する。さらに認知機能はMMSE・CDRによって、一方大脳白質病変の悪化速度(mL/年)は大脳白質病変量自動解析ソフトであるSNIPER(Software for Neuro-Image Processing in Experimental Research)によって、いずれも定量的に測定し、患者個々の高血圧管理状況と認知機能及び加齢性脳変性との関連性を評価することを予定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度以降の研究実施計画:プレリミナリー研究は、国立長寿医療研究センター・循環器内科へ定期通院している患者の、あくまで一部を登録対象としたデータであった。従って申請受理後、より規模を拡大することを考え、当施設の循環器内科部への定期通院患者を網羅的に登録して縦断追跡を可能とする簡便なシステムを構築することとした。実際には外部ソフトウェア開発者と協力して新たな登録システムを整備し、20018年度9月には一応完成した。同年10月以降、順次新規の登録患者を増やしつつあり、既存の70症例に加えて新たに50症例程度が年度末までの期間に追加された。 一方、当初計画していた高次脳機能検査は、専門性の高い心理士を継続雇用することによって実施するとの予定であったが、このような高専門性心理士を継続的に確保することが地域柄なかなか困難な状況にあり、現在は一部の症例のみに実施している状況にある。 なお、加齢性脳変性である大脳白質病変の定量的評価方法について、さらなる高精度定量評価を目的として、従来の1.5テスラ型MRIにより得られた頭部画像を用いた計測方法から、より分解能の高い3テスラ型MRIにより得られた頭部画像を用いた計測方法への移行を企画した。本目的に従って、2018年度11月に国立長寿医療研究センターでは、新たに三重大学・富本らにより開発された大脳白質病変測定ソフトを新規購入し、同ソフトを用いた測定条件の設定と調整を開始しつつある。これらの評価方法の変更準備は、現段階では概ね2019年度中には完了すると予想している。本ソフトによる解析方法が確立し安定した後は、速やかに新規登録患者については3テスラ型MRIによる解析へ移行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
患者登録、及び、高次脳機能検査以外の項目に関する予定検査の実施については、概ね当初の研究計画に従って遂行できている。一方で高次脳機能検査については、専門性の高い心理士を継続雇用することによって実施する予定であったが、このような高専門性心理士を継続的に確保することが地域柄なかなか困難な状況にあり、高い専門性が要求されるTMT・知能検査・GDR等の検査については、対象者の一部に対してのみ実施している状況にある。これを鑑みて、高次脳機能検査に関しては、比較的簡便な認知機能検査であるMMSEとCDRのみの実施に一旦集約して経過追跡を実施する研究計画へと変更修正する。但し継続雇用が可能な心理士を獲得できた際には、改めて本来の研究計画に則った検査項目を実施することとする。 また、従来大脳白質病変量は、1.5テスラ型MRIにより撮影された頭部画像をSNIPERソフトにより解析・測定していたが、三重大学・富本らにより開発された一層高精度な新規ソフトによる解析準備が施設内で進められている。従ってこれが可能となった段階からは、新規登録患者の大脳白質病変定量は、3.0テスラ型MRIに基づく手法へと変更する予定である。なお従来法にて計測された症例については、同一方法での比較が必要なため、引き続き従来法による計測を継続予定とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では専門性の高い心理士を連日雇用する予定であったが、現在検査を委託している適切な人材3名とも他施設との兼務にならざるを得ず、当初予定していた人件費分が先送りとなった。また大脳白質病変量の計測に使用するために分担購入予定であった三重大学・富本らにより開発された大脳白質病変測定ソフトが、国立長寿医療研究センターの一括購入へと変更されたために、当初予定していたソフト購入費が不要となった。このような理由で、一部の予算が次年度使用へと繰り越された。
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