研究課題
ヒト胎児腎細胞由来浮遊293細胞に大量発現させたヒト型リコンビナントPrPCを基質として用いるcell-PMCA (cPMCA) 法は、孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病 (sCJD)のうち、視床型クロイツフェルト・ヤコブ病 (sCJD-MM2T)のプリオンを高効率に増幅できる。そこでその増幅特性に注目して、家族性プリオン病である致死性家族性不眠症 (FFI) との関連について解析した。本年度は、それぞれ病態の全く異なるFFIの親子の症例と、sCJD-MM2T症例のcPMCA法におけるプリオンの増幅特性を比較した。典型的なFFIの病態を示すFFI (子) のプリオンは、cPMCA法で顕著に増幅されるのに対し、病理像的に海綿状変化が目立ちsCJD-MM1タイプの病理像に似るFFI (母) は、FFI (子) と同じ遺伝子変異を持ちかつタイプ2のプリオンであるにも関わらずほとんど増幅することはできなかった。つまり、このFFI (母) は、典型的なFFIとは全く異なるプリオンにより引き起こされたことがcPMCAによる増幅効率の違いから明らかとなった。さらに、当研究室におけるノックインマウスを用いた感染実験の結果も併せると、sCJD-MM2Tと典型的FFIはノックインマウスへの伝達性およびcPMCAによる増幅特性は完全に一致しており、これらは同一のプリオン株 (M2Tプリオン) によって引き起こされたことが明らかとなった。一方FFI (母) のノックインマウスへの伝達性はsCJD-MM2Tと典型的FFIのそれとは全く異なるものの、現時点で皮質型CJD (sCJD-MM2C) と区別できず、cPMCAでも増幅できない。しかしながら病理的にsCJD-MM2C病変とは全く異なることから、M2C (sv: spongiform changes) プリオンとして新たに同定した。
1: 当初の計画以上に進展している
予定していたFFIおよびsCJD-MM2T症例についてはすべての解析が終了し、下オリーブ核病変の有無がcPMCAにおける増幅効率を決定する重要な因子であることが明らかとなっており、保有するCJD症例150例程度の増幅実験もM2Tプリオン併発の可能性を疑ってcPMCAによる解析を続けてきた。その結果、現在ある家族性CJDの中に著しくcPMCAで増幅可能な症例が数例あることが分かってきている。これらの症例は家族性CJDと診断されながら病理学的に下オリーブ核に強い病変が認められることから、M2Tプリオンの併発が家族性CJDにおいても起こることが新たに明らかになりつつある。M2Tプリオンがこれまで疑われてこなかったタイプのCJDにも併発する可能性が示唆されることとなり、当初予定していた以上に解析は進捗している。
引き続き、研究課題の一つであるFFIおよびsCJD-MM2Tプリオンの脳内分布を明らかにするため、cPMCA法による定量的評価法の確立を目指す。各部位ごとの検出限界の違いから異常プリオンタンパク質の蓄積量をできるだけ正確に比較するため検討を続けていく。具体的にはcPMCAを反復して行いデータを揃えていくことである。異常プリオンの蓄積量はcPMCAによる検出限界からn数を増やすことでより正確に推定することができることが明らかになっている。本年度は、これに加えて当初の研究課題を遂行する上で新たに解決すべき課題が見つかったため、MM2CプリオンのcPMCA法による増幅の成功をも目指す予定である。sCJD-MM2Cを引き起こすプリオン (M2C (lv: large vacuole))と、今回同定されたM2T (sv)プリオン のcPMCAによる増幅特性の違いについても明らかにする方法を追加に検討する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Brain communications
巻: 1 ページ: fcz045
https://doi.org/10.1093/braincomms/fcz045