研究実績の概要 |
難治性神経変性疾患の一つである筋萎縮性側索硬化症 (以下ALS) は、確立された治療法がなく、早期の治療法開発が切望されている。近年、ALS病変部位である脊髄組織内で、神経細胞以外のアストロサイトや炎症細胞、ミクログリアなどが、病因に深く関わっていることが報告されており、非細胞自律性神経細胞死 (non-cell autonomous neuronal death)として、ALSのみならず神経変性疾患全般に認められる現象として注目を浴びている。それら神経細胞を取り巻く細胞のうち、ミクログリアは、その特徴により様々なタイプに分類され、大きく炎症を惹起するタイプ (炎症惹起型:M1)と細胞を保護するタイ プ(神経保護型:M2)に分けて考えられている。また、このミクログリアは、脊髄病変部位に多数集積することが報告されており、病態に深く関与しており、 広く研究されている。そこで、我々はミクログリア細胞に対してMolecular ZIP codeを用いたピンポイントなターゲッティン グによる遺伝子輸送システムを用いて、ALS脊髄組織内に集簇するM1ミクログリアをM2ミクログリアへと誘導することによる、正常組織や細胞への安全性に配慮し たALSへの新しい治療技術を確立することを目指す。 初年度は、まず、当初の予定通り、培養条件での検討を行った。ミクログリア標的 Molecular ZIP codeとmiRNA-124, miRNA-145,の複合体を生成し、初代培養ミクログリアへの遺伝子導入効率、M2ミクログリアへの誘導効果を検証し、それらを証明した。また、誘導されたM2ミクログリア培養上清による神経細胞保護効果も証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生後 1-2 日のマウス新生児大脳より単離した混合グリア培養を14 日間行い、初代培養ミクログリアを準備。 得られたミクログリアにFITCでラベルしたミクログリア特異的結合ペプチド(M1 ペプチド:C-HHSSSAR-C)を投与し、結合実験を施行。コントロールに比し、有意に結合することを確認。次に、M1ペプチドに9 つのアルギニン(R)連鎖(正電荷に富む)を連結したペプチドを用意し、合成委託したmiR-124, miR-145との複合体をそれぞれ準備。M1 peptide+miR124, M1 peptide+miR-145を初代培養ミクログリアに投与し、遺伝子発現効率について検討した。miRNAのみ、およびリポフェクタミンによる遺伝子導入群と比較して、M1ペプチド使用により、有意に遺伝子導入効果があることをmiRNAのQPCRにて確認した。M1 peptide+miR124, M1 peptide+miR-145投与いずれにおいても、ミクログリア内でFIZZ、IL-4遺伝子の発現上昇を認め、M2ミクログリアへ誘導されていることが確認できた。また、同時に、miRNA124,miR145の遺伝子導入により、ミクログリアがどのような遺伝子群に影響を及ぼすかを調べるために、遺伝子導入後ミクログリアにてmRNA array も施行。ミクログリアの機能に影響すると考えられる遺伝子の候補を、いくつか得ることができた。 また、miRNA124,miR145遺伝子発現後のミクログリア培養上清を回収し、それらをNSC-34 細胞(運動神経細胞株)に投与することにより、神経細胞への保護効果を検証。酸化ストレス下の条件で、神経細胞保護効果を示すことも確認された。
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