研究課題
多発性硬化症(MS)は若年成人の中枢神経系を侵す脱髄疾患であり、本邦でも患者数が増加の一途を辿っている。MSの主たる病理は炎症性脱髄であるが、造血幹細胞移植等により炎症を完全に封じ込めてもなお、MSは悪化し得ることが最近報告されており、慢性脱髄が一因となる神経変性がその原因として考えられている。一般にMS患者の髄鞘再生能力は低下しているが、個人差も認められる。髄鞘再生医薬の臨床試験も国外で開始されている中、MSにおける髄鞘再生と長期予後の関係を明らかにすることは極めて重要である。一般臨床に使用されているMRIでは髄鞘再生は可視化困難であるが、申請者らは髄鞘を特異的に可視化するMRI撮像法「ミエリンマップ法」(q-Space Myelin Map(qMM))を2016年に開発した。本研究ではこの新技術を用いて、MS患者の髄鞘再生能力と、長期予後の関係を解析し、今後のMSの治療戦略における髄鞘再生医薬の意義を明確にすることを目的とする。上記目的を達成するには、MS患者のqMMと臨床症状の推移を長期に追跡し分析することが必要となる。2022年度末までに100名超のMS患者に本研究に参加同意を得ており、定期的なqMMの撮影と臨床症状の確認を行った。うち50名については本書作成時点で解析を終了し、通常のMRI(T2強調画像)では正常と解されるnormal-appearing white matter(NAWM)において、qMMによる髄鞘評価ではその傷害が、特に進行期MSでは顕在化していることが確認された。あるいはまた、NAWMのqMMによる髄鞘評価結果は、患者の身体障害や高次脳と連関することも確認された。以上のことより、NAWMのqMM評価結果はMSの進行や病状と連動したサロゲートマーカーになり得ることを見出した。最終100名超の解析を行った上で、原著論文を上梓する予定である。
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https://www.neurology.med.keio.ac.jp/research/dep_sclerosis.html