正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus: iNPH)の病態は未だ不明であり、iNPH疾患モデルマウスは存在していない。これまでのiNPH研究により、我々はSFMBT1遺伝子イントロン2のコピー数減少が健常高齢者や疾患対照群に比べて有意に高頻度であることを明らかにして、世界で初めて疾患感受性遺伝子としてSFMBT1遺伝子を同定した。本研究の目的は、SFMBT1遺伝子に着目して世界初の遺伝的リスク因子を加味したiNPH疾患モデルマウスの作成を目指すことと、SFMBT1遺伝子改変マウスを用いて新たなiNPH疾患感受性遺伝子の探索を行うことである。そこで我々は、中枢神経におけるSFMBT1遺伝子のはたらきを明らかにするため、CRISPR-Cas9 (clustered regularly Interspaced short palindromic repeats CRISPR-asociated Proteins 9)システムを用いた遺伝子編集技術によりSFMBT1遺伝子ノックアウトマウスの作成を試みた。現在までに、SFMBT1遺伝子エクソン4における一塩基欠失と4塩基欠失の2種類のノックアウトマウスのラインを確立することができた。今後は、SFMBT1遺伝子のホモ欠失マウスを確立して、SFMBT1遺伝子改変マウスがiNPHモデルマウスとして妥当な表現型をとりうるのかを検証していく。さらには、確立したSFMBT1遺伝子改変マウスを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行うことによって第二の疾患感受性遺伝子や疾患病態における重要な分子群の同定を目指すことができるものと期待する。
|