名古屋大学神経内科が中心となり推進した医師主導治験の結果に基づいて、リュープロレリン酢酸塩に「球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の進行抑制」の効能が追加された。本医薬品開発は、SBMAに対する疾患修飾療法(disease-modifying therapy: DMT)に対するトランスレーショナルリサーチが結実したものであり、神経変性疾患の病態生理に基づく疾患修飾療法が、世界に先駆けて本邦で承認された貴重な例である。本研究では、名古屋大学神経内科が過去から長期にわたり収集してきた臨床情報と、新たに収集する臨床情報を統合するデータベースを構築し、縦断的データ解析からてリュープロレリン酢酸塩の有効性の推定を行った。同時に、複数の定量的筋力指標を用いた複合スコアを開発しその有用性を検討した。縦断的データ解析対象には、合計392例のSBMA患者を組み入れた。対象被験者の平均年齢は55.0±10.3歳、ベースライン時罹病期間は13.2±7.7年であった。介入前と介入後のALSFRS-R合計スコアの1年あたりの変化量について、本薬投与開始前後2年間の観察記録が存在する47例を抽出して比較したしたところ、介入前データでは-0.528 ±0.634/年、介入後データ -0.292±1.471 /年(p = 0.3185)と、統計学的には有意ではないが、使用開始後に進行が緩やかになる傾向があった。定量的複合機能指標(SBMAFC)の有用性について、SBMAレジストリに登録された49例の48週間の経時的変化を、効果量(effect size)を示す指標の1つであるSRMを算出して既存の評価スケールと比較したところ、SBMAFCが0.556、ALSFRS-Rが0.277、SBMAFRSが0.311であり、SBMAFCが、SBMA患者の症状変化に対して最も鋭敏な指標であることが示唆された。
|