研究課題/領域番号 |
18K07528
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
越智 博文 愛媛大学, 医学系研究科, 准教授 (20325442)
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研究分担者 |
藤井 ちひろ 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (00516065)
岡田 洋一郎 関西医科大学, 医学部, 研究医員 (10808356)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多発性硬化症 / Toll様受容体4 / 制御性B細胞 / IL10 / リポ多糖 / リポ多糖結合タンパク質 / HMGB1 |
研究実績の概要 |
我々は、リポ多糖(LPS)によるToll様受容体4(TLR4)刺激によってIL10産生制御性B細胞が誘導されることを明らかにし、再発期多発性硬化症(MS)患者ではこの制御性B細胞が増加していることを報告した。本研究の主要な目的は、IL10産生制御性B細胞を誘導するTLR4の内在性リガンドを見出すとともに、IL10産生制御性B細胞の機能制御を介したMSの新規免疫細胞療法を開発することである。これまでの研究により、①微生物由来のLPS以外にも、high mobility group box-1(HMGB1)によるTLR4刺激によってIL10産生制御性B細胞が誘導されること、②対照変性疾患患者に比較してMS患者の脳脊髄液中では HMGB1濃度が高いこと、を新たに見出した。しかし、HMGB1を中和することでMSの動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎の軽症化が生じるとの既報告から、炎症や組織障害に伴い細胞外に放出されたHMGB1は、TLR4を介して制御性B細胞を誘導するよりむしろ、TLR2やRAGEを介して炎症を増幅することで疾患促進的に作用しているのではないかと考えられる。一方、LPSとLPS-binding protein(LBP)の脳脊髄液中の動態を解析した結果、③MS患者、特に寛解期MS患者の脳脊髄液中ではLPSとLBPが増加していること、④LPSとLBPの濃度は正の相関関係にあることを見出した。このことから、LPSがLBPと結合してTLR4を刺激することでIL10産生制御性B細胞が誘導され、MSの寛解導入とその維持に関与している可能性が考えられた。そこで、MS患者の血中および脳脊髄液中のLPSとLBP、また、これらが結合する可溶性CD14の生体内動態と、IL10産生制御性B細胞の免疫動態を経時的に追跡する研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究において、IL10産生制御性B細胞を誘導する新たな内在性TLR4リガンドとしてHMGB1を同定した。しかし、これまでの検討からは、TLR4を介したIL10産生制御性B細胞の誘導は、MS病態におけるHMGB1の主たる作用ではないと考えられる。一方、MS患者、特に寛解期MS患者の脳脊髄液中ではLPSとLBPがとともに増加していることから、LPSによるTLR4刺激によって誘導されたIL10産生制御性B細胞がMSの寛解導入とその維持に深く関わっている可能性が考えられる。そこで、MS患者の血中および脳脊髄液中のLPSとLBP、また、これらが結合する可溶性CD14の生体内動態と、IL10産生制御性B細胞の免疫動態を経時的に追跡する研究を進めている。この点から、内在性TLR4リガンドを同定する研究は着実に進展していると考える。しかし、HMGB1の結果がnegativeであったこともあり当初の予定より進捗が遅れている。加えて、当初の目的であった、TLR4刺激によって誘導されるIL10産生制御性B細胞を特徴付ける表面マーカーの決定、また、TLR4とCD40を介したシグナル伝達のクロストークに関わる分子の同定には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、MS患者を対象として血中および脳脊髄液中のLPSとLBP、また、これらが結合する可溶性CD14の生体内動態と、IL10産生制御性B細胞の免疫動態を経時的に追跡する研究を進めていく。このことにより、MSの寛解導入とその維持におけるLPSの役割を明確にするとともに、寛解維持と再発の重症化軽減に繋がる免疫治療法の開発を目指す。また、LPSによるTLR4刺激によって誘導されるIL10産生制御性B細胞を特徴付ける表面抗原を同定するため、flow cytometry法による解析を継続する。さらに、クロマチン免疫沈降とウェスタンブロッティングにより、TLR4とCD40を介したB細胞シグナル伝達のクロストークに関わる分子の同定を試みる。
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