研究課題/領域番号 |
18K07529
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
磯部 紀子 九州大学, 医学研究院, 准教授 (60452752)
|
研究分担者 |
松下 拓也 九州大学, 大学病院, 講師 (00533001)
吉良 潤一 九州大学, 医学研究院, 教授 (40183305)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 多発性硬化症 / エピジェネティクス / 遺伝的刷り込み / 片親起源効果 / SNP |
研究実績の概要 |
多因子疾患である多発性硬化症(MS)ではゲノムワイド関連解析(GWAS)により200以上のリスク遺伝子領域が同定されたものの、未だ遺伝的要因の大部分は説明できていない(missing heritability)。申請者は、このmissing heritabilityを説明するものとして、由来する親の性別によりMS発症への遺伝子の寄与度が異なる「片親起源効果(parent-of-origin effect)」が病態に重要であると仮説を立てた。 まず、両親および発端者の3名(trio)からなる欧米白人931家系の全ゲノムSNPデータとハプロタイプ情報を用いた最新の多項式モデルによる関連解析で、各SNPのアリルが父(または母)から発端者へ遺伝する頻度が偶然に比べて有意に多いか検定し、アリルが由来する親によるアリルのMS発症への寄与度の違いを検討した。 PREMIM/EMIMソフトウェアを用いて、非主要組織適合遺伝子複合体領域に存在する200個のMSリスク関連SNPについて、片親起源効果を解析したところ、利用可能であった198個のSNPのうち24個で母親由来の片親起源効果を認め、21個で父親由来の片親起源効果を認めた。中でも、第一染色体短腕に位置し、複数のMS関連SNPを有するEVI5遺伝子領域では、EVI5遺伝子内のMS関連SNPは母親起源効果を有し、GFI遺伝子近傍のMS関連SNPは父親由来の片親起源効果を認めた。GFI1遺伝子は、過去の研究から父親由来の遺伝子のみ発現する遺伝的刷り込みが知られている遺伝子であり、本研究の結果は、既知の刷り込みの方向性と合致した。 本結果により、MSリスク関連遺伝子SNPには片親起源効果を有するものがあることが示され、複数のMSリスク関連SNPを有する遺伝子領域は、片親起源効果のheterogeneityを反映している可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PREMIM/EMIMソフトウェアを用い、既知のMSリスク関連SNPについて、片親起源効果を解析し、母親、父親起源効果を有する遺伝子領域が複数存在することを同定した。片親起源効果を有する新規MSリスク関連領域候補の同定は若干遅れているものの、複数のMSリスク関連SNPを有する遺伝子領域における片親起源効果の結果から、さらに遺伝的発症メカニズムの多様性についての考察、今後の検証方法の検討にまで至っており、全体としては、おおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究手法の高い検出力を生かし、新規MSリスク関連領域を同定し、片親起源効果の背景にあるDNAメチル化等のエピジェネティクス機構をバイサルファイトシークエンスやアリル特異的遺伝子発現解析等により解析し、MS発症に至る遺伝子発現動態を明らかにする予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度以降にバイサルフェートシークエンスなどの実験を予定しており、そちらで繰り越した研究費も含めて使用予定である。
|