遺伝的要因と環境要因など、複数の要因によって発症する、多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)を対象に、特に遺伝的要因の発症への寄与機構について、片親起源効果に注目し検討した。 PREMIM/EMIMソフトウェアを用い、200個のMSリスク関連一塩基多型(SNP)について、片親起源効果を解析し、既知のMS関連遺伝子領域であるEVI5領域について、父由来のアリルが発症に関わる遺伝子領域と、母由来のアリルが発症に関わる遺伝子領域が存在することを明らかにした。さらに、ゲノムワイドに片親起源効果について関連解析を行い新規のMS関連遺伝子候補領域を絞り込んだ。 また、米国との共同研究において、既知のMS発症リスク関連遺伝子領域それぞれについて、リスクとリンクしたタグSNPのリスク関連アリルを、各個人が有しているのかを示す遺伝的凝集度を、家系データを用いて検討した。具体的には、一方がMSを発症している両親とその複数の子供からなるデータで、子供の一方はMSに罹患し、もう一方はMSに非罹患であった。検討の結果、対象家系において、最も多いパターンは、母の遺伝的凝集度が一般平均より高く、父が低いパターンであったが、各メンバー間の凝集度の相関をみたところ、父とMSに罹患した子供の凝集度の間に正の相関があり、かつ、片親あるいは両親の凝集度が高いほど、子供の凝集度が高い結果であった。 以上より、片親起源効果に注目することにより、既知のMSリスク関連遺伝子領域において、MS発症へのより詳細な寄与機構が明らかになり、また、その総和として、両親の遺伝的凝集度が次の世代におけるMSリスクに軽微ではあるが影響を与える可能性が示唆された。
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