研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の神経変性は、運動ニューロン軸索遠位端のシナプスより軸索変性が始まり、細胞体へと進行していく様式をとる。この分子病態を、ミエリン関連神経突起伸長阻害因子(MAIs)の一つであるNogoとその受容体であるNgR1を介するシグナル伝達が増強することから、Nogoに対するモノクローナル抗体(ozanezumab)の臨床応用が行われたが、第II相試験での有効性は示されなかった。我々はNogoを含む NgR1のすべてのリガンドとの結合を阻害し軸索伸長を促進するとともに、ミクログリア、Tリンパ球にも作用する可能性のある新規神経再生機能分子LOTUSに着目した研究を展開している。令和2年度は、ALSモデルである変異SOD1(G93A)マウスとLOTUS過剰発現マウスの交配の例数をさらに増やし、ロタロッドテスト、ワイヤーハングテストによる運動機能解析を進めた結果、15週目頃からLOTUS過剰発現変異SOD1マウスは変異SOD1マウスに比べて有意な運動機能の改善を認めるとともに、生存期間は中央値で15日の延長を示し、中には40-50日の延長を示すマウスも存在した。現在、NeuN, ChaT, Iba-1, GFAPによる運動ニューロン数およびグリア増生の病理解析を行っており、preliminaryには、LOTUS過剰発現変異SOD1マウスでは変異SOD1マウスに比べて運動ニューロン数の維持、グリア増生の増加が見られている。また、神経筋結合部(NMJ)の形態に及ぼす影響についても、NMJの評価法を確立し評価を開始した。さらに、両マウスにおけるMAIsの発現量の比較検討を行った。NgR1シグナルの下流に位置する分子についても、その変動を確認中であり、これらの解析により、ALSにおけるLOTUSの神経保護、病態改善機構を明らかにしたい。
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