研究実績の概要 |
これまで同定された筋萎縮性側索硬化症(ALS)/前頭側頭型認知症(FTD)を引き起こす原因遺伝子6つTDP-43, FUS, TAF15, ESWR1, hnRNPA1, hnRNPA2は,生化学的,細胞生物学的に共通性が見られる. すなわち1) RNA recognizing motif (RRM) を持つRNA結合蛋白である. 2) prion-like domain (PrLD) を持ち凝集性が高い. このPrLDはアミノ酸配列において2つの特徴がありglycine/serine-tyrosine glycine/serine (G/S-Y-G/S)の繰り返し配列があり,さらにglutamine (Q)に富む. 3) ストレス顆粒の構成分子である. 4) 患者死後脳で細胞質への局在異常を起こし封入体を形成する. 本研究では、上記4つの特徴を持つアミノ酸配列を人工的に設計し、そのcDNAをマウスに導入することにより、人工ALS/FTDモデルを作成、その分子機構を解析する.我々は、すでに、このALS病態誘導人工遺伝子を培養細胞に導入することによって、封入体形成、ストレス顆粒への移行、細胞毒性、凝集を確認しておりALS関連分子の細胞学的特性を再現できたと考えている. 一方、近年では、多くのALS原因RNA結合蛋白の構造上、C末端アルギニン―グリシンリッチドメインが、ストレス顆粒の形成や凝集性に重要であることが報告されている. 本年度は、ALS病態誘導人工遺伝子の改良のため、RNA結合部位の下流に、アルギニン―グリシン―グリシン(RRG)リピート(12,20リピート)を挿入し、培養細胞に導入、封入体形成率、凝集性を検討した. 12,20リピートともに、封入体形成率(リピートなし:15.4±2.8%, 12リピート:10.3±1.8, 20リピート:12.1±2.4)、ウエスタンブロット上凝集性の上昇は認められなかった. 以上より、人工遺伝子においては、RGGリピート挿入によるALS関連分子の生化学的、細胞学的特性の増強は認められなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記結果より、RGGリピートを挿入しないcDNAを用いて、ALS病態誘導人工遺伝子発現モデル動物の作成を推進している。Cre/loxPシステムを利用した誘導発現をもつALS病態誘導人工遺伝子遺伝子改変用ベクターをROSA26遺伝子座へのノックインベクターを作製した. HEK293細胞では、Cre存在下で十分な発現を確認した. ROSA26遺伝子座への挿入により外来遺伝の安定的ユビキタス発現とホモマウスでの解析が可能となる. 遺伝子改変用ベクターはすでに作成し、Crispr/cas9システムを用いた受精卵から直接ノックインマウスを行っている. 本研究の申請後、下記2つの国際紙に論文掲載された。ALSの病態解明に向けて確かな進達を認めている。 1) Ito D, Hatano M, Suzuki N. RNA-binding proteins and the ALS/FTD pathological cascade. Sci Transl Med. 2017; 9(415) 2) Mitsuhashi K, Ito D, Mashima K, et al. De novo design of RNA-binding proteins with a prion-like domain related to ALS/FTD proteinopathies. Sci Rep. 2017; 7(1):16871
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