研究実績の概要 |
本研究では最近特にアテローム血栓性梗塞において、動脈硬化の進展や梗塞巣の大きさ・予後などとの関連が注目されている炎症関連分子(高感度CRP、IL-6、IL-10、ICAM-1、MMP-2、MMP-9、TNF-α等)に対する、中性糖脂質の促進的クロストークに着目した。 アテローム血栓性梗塞、ラクナ梗塞、心原性塞栓症(以下代表的3病型と略)の間で、急性期血清中の炎症関連分子の量や発現パターンに有意差はなく、急性期と回復期、脂質異常症の有無、スタチン投与前後でも有意な変化は認めなかった。 本研究中に他施設から、アテローム性動脈硬化に対し、制御性T細胞が抑制的に作用する可能性が示されたことに基づき、急性期の患者リンパ球の表面抗原解析を試みた。代表的3病型においては各病型内でのばらつきが大きく、病型毎の傾向は明らかでなかった。 中性糖脂質代謝に関わる血清ライソゾーム水解酵素活性は、α- & β-galactosidase, β-glucosidase, β-hexosaminidaseいずれも代表的3病型間で有意差を認めなかった。他の病型を含む解析において、Trousseau症候群では心原性塞栓症に比しα-及びβ-galactosidaseの活性が低い傾向があり、Trousseau症候群で高値となるD-dimerとβ-galactosidase活性に逆相関を認めた。多発/単発梗塞、梗塞巣のサイズと酵素活性との相関は認めなかった。 急性期脳梗塞では病型の他、発症からの時間、梗塞巣のサイズ、陳旧性梗塞の有無、基礎疾患や内服中の薬剤、肺炎など感染症の合併の有無など、病態を左右する多くの因子に結果が左右され、有効な解析が非常に困難であった。 分子レベル、動物モデルにおける既報告や、当研究室で進行中の神経変性疾患におけるリピドミクス解析の結果から、糖脂質解析は炎症関連分子とのクロストークを司る重要な分子として、脳梗塞の病態解析・制御における有用なツールとなりうると思われ、今後解析項目・方法をブラッシュアップし研究を進める。
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