研究課題
高齢者に多い認知症患者の脳内には、複数の原因疾患に関係する病的変化が併存した混合病理を認めることが多く、その臨床症状・治療反応性・予後は多様である。しかし現在用いられている認知症の臨床診断基準は原因疾患が単一であることを仮定しており、混合病理を呈する認知症患者の適切な診断・治療に関する検討は少ない。我々は今までに認知症患者の脳内にみられる異常蓄積タンパクを可視化する技術を用いて、各種認知症における神経障害や臨床病態との関連を明らかにしてきた。本研究では、脳内異常蓄積タンパクの可視化技術を応用し、認知症患者における脳病理の多様性と治療反応性ならびに予後との関連を明らかにする。本研究により混合病理を呈する認知症患者の診断・治療法が確立し、認知症臨床診断水準の向上による根本治療薬開発促進が期待される。我々は2019年度に引き続き、2020年度もアルツハイマー病(AD)、非AD性認知症、軽度認知機能障害、健常者を対象に、PETによる脳内異常蓄積タンパク(アミロイドおよびタウ病変)の評価(一部症例では脳糖代謝評価)およびMRI検査(形態学的評価ならびに機能障害の評価)、臨床神経学的評価、認知機能評価を行い、PETの動態解析などを行った。同年中までに得られたデータの解析結果から、ADスペクトラム患者ならびに非AD性認知症である広義の前頭側頭葉変性症患者において、PETによるタウ病変の有無ならびにその空間的広がりの評価によって各疾患の鑑別疾患が可能であり、さらにその集積程度によって病理学的な重症度評価ならびに臨床症状の予後予測が可能であることなどを明らかにした。これらの成果について、一部学会発表を行うとともに、論文投稿を行った。
2: おおむね順調に進展している
2020年度は新型コロナウイルス感染症の流行により、被検者募集ならびに検査に多大な影響が生じたが、2019年度までに順調にデータ収集が進んでいたこともあり、収集済みデータも含めた詳細な解析を行うことで、脳病理、脳萎縮、各種臨床症状、認知機能検査等との関連や、タウPET検査による臨床診断ならびに予後予測における有用性に関する新規知見を確認し、成果発表を行うことが出来た。
次年度はさらに検査症例数を増やし、脳病理の多様性と臨床症状・経過との関連や、各疾患における解析についての検討を行いながら、これまでに得られた新規知見に関する成果発表と論文投稿を行う。
コロナ禍に伴い①年度内に施行予定であった検査の一部が延期となったこと、また②成果発表のために参加予定の学会が次年度以降へ延期となったこと、などの理由で使用額の繰り越しを行った。次年度に延期された検査費用ならびに学会参加費・旅費にあてる予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 8件)
Neuron
巻: 109 ページ: 42~58.e8
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